2015年2月22日日曜日

新キーボード プロジェクト? - 親指シフトについて

角川アスキー総研の最新の調査で親指シフトの利用者が現在でも1.25%もいる、ということが一部で話題になっています。調査前はそのほかの0.52%の中に紛れるような印象をもたれていたからでしょうか。エスリルのニューキーボードNISSEだけで見ると、これまでの出荷ベースでは親指シフトとTRONかなの刻印タイプが約30%を占めています(下図参考)。新JIS配列や刻印はないものの月配列を使われている方なども合わせると、1/3強の方がかな入力を使われている様子です。キーボードの利用時間の極端に長いユーザー方の中では、かな入力は今でも実際にはよく使われている可能性が高そうです。

NISSEのキーキャップの刻印の割合

NISSEは、現在はほぼ入手不可能なオリジナルのTRONキーボート(μTRONキーボードではない方)からの移行を想定していましたので、パーソナルメディアのTK1やtanomi.comのスケルトロンST-2000から移行される方がTRONかなを使われる場面がありそうかな、という想定はありました(NISSEよりさらに前にあった、エスリルでキーボードを作って欲しいという要望はそういった方たちからのものでした)。NISSE発売後は実際にBTRON仕様のOS超漢字と合わせて使っています、といった声を頂くこともあります。ところが実際に販売をはじめると、それを上回る数のNISSEのご注文を親指シフトユーザーの方から頂く結果になっています。

親指シフトに関しては、今でもローマ字入力よりも1.7倍速い(※1)、場合によっては2倍速い、といった説明がされていたり、それを素直に信じてローマ字入力から乗り換えたのにローマ字入力のときの速度にさえなかなか追いつかない、といったことをブログなどに書かれている例も見かけます。

※1 親指シフトを使うと、打鍵数で比較すると(同時打鍵方式なのでシフトキーは数えない)、ローマ字入力の約1/1.7の打鍵数で済むことが知られています。

NISSEでかな刻印ありのタイプを求められる方は、それまでにもかな入力を使われていた方がほとんどですが、中にはNISSEではじめてかな入力を使いはじめられたという方もいらっしゃるようです。そこで、今回は親指シフトに関して設計をリードされた神田泰典さんのサイト(http://www.ykanda.jp/)から、当初の設計意図からその後の評価までご参考のために簡単にまとめておこうと思います。

人間に相応しいかな入力方式の考察 (1978)


http://www.ykanda.jp/oasgif/nin-1.jpg, 情報処理学会第19回全国大会.

1978年の親指シフトを使ったワープロOASYSの開発にあたっての基礎研究についてまとめた論文で、その設計目標として以下のようなものが挙げられています。
「専門オペレータ以外の者が文章を考えながらタイピングするのに適している」
「入力速度が手書きより速いこと」
「初心者でも親しみを持てること」
「疲労が手書きより少ないこと」
一番の目標は、一般家庭にはほとんどキーボードが普及していなかった当時の日本で、初めてキーボードに触る人ような人でも手書きよりも楽に容易にワープロで文章を作成できるようにすることであったことが伝わってくるものです。

漢字入力法の人間工学的検討(1978)


http://www.ykanda.jp/input/kanji/kanji.htm, 情報処理学会第19回全国大会.

これは神田さんご自身の文ではありませんが、当時のワープロへの期待感などが伝わってくるものです。そのひとつとして、
「企業は新入社員が即日仕事ができることをのぞんでいる」
と言う点が挙げられています。当時は新入社員は入社時点ではキーボードに触ったことがない、という想定でいて、小学校の時からタイピングを教えたりしている現代とは状況はかなり違います。同時期の森田さんのM式キーボードの開発にあたっても、養成期間が短いこと(日本語だから速く入力できる―ワープロ時代に問うM式キーボード, p.133)、という点は同様に強調されています。

OASYS100発表のニュースリリース (1980)


http://www.ykanda.jp/txt/oa100ana.txt

OASYS100の発表前日に作られたニュースリリースの中では、その特徴として以下の2点が最初に挙げられています。
「日本語文章が誰でも容易に入力できる親指シフトキーボード」
「単語辞書は10万語まで登録可能」
最初期にワープロを導入された方たちの中には速記の反訳(速記符号を元に戻すこと)にワープロを用いようということで導入された方たちがいらして、実際に親指シフト方式よりも「辞書にない単語を2万語までユーザが自由に作成して登録できる」(他社製品よりも優れていたとのこと)という部分が魅力であった、というお話を聞くことがありました。速記者の方はたとえば「外務省」を「がいむしょー 』と書くかわりに「がむょ」と書いておいたりすることがあって、こう言った略語を「がむょ」→「外務省」のように大量に辞書登録できるOASYS100はそれだけでも魅力的であったようです。

補足: 現在ではこういった略語の部分はIMEの予測変換(サジェスト)機能によってかなり補えるようになってきています。

日本語電子タイプライタ「OASYS100」開発の経緯 (1980)


http://www.ykanda.jp/txt/himitsu.jpg, 日本電子計算機ニュース

神田さんご自身が「オアシスユーザにはおすすめしたい資料です。」とされているものです。
「速さは第一義ではない。速いに越したことはないが、速く入力するのが目的ではない。」
「慣れると、かな漢字混じり文で50文字/分の速度で入力できる。」
後年、ローマ字入力よりも1.7倍速い、2倍速いという形で宣伝されていくことになってしまいますが、本来そういうものではなかったという点には注意が必要でしょう。

親指シフトキーポード (1980)


http://www.ykanda.jp/oasgif/oya-2.jpg, 情報処理学会第20回全国大会.

親指シフトの最初の学会発表とのこと。
「6人が(略)練習を1か月行った。(略)打鍵速度は(略)80〜180字/分である。」
カナタイプライターのオペレーターの方で速い方は300字/分にも達すること、裁判所の速記官が利用されているソクタイプキーボード(2年間の研修後320字/分以上)といったものがあることについては神田さんも認識されていたように思われます(ソクタイプについてもときどき記述されています)。ただキーボードに触ったことがない「新入社員が即日仕事ができること」という当時の要件には、どちらも適していないということも当時は自明であったように思います。

日本語情報処理のために (1982)


http://www.ykanda.jp/jef/bit/bit06.jpg, 雑誌bit

雑誌bitは、月刊ASCII等と合わせて読むようになると、だいぶコンピューターにはまってきた感じがする雑誌のひとつだったでしょうか。
「入力速度は普通の人で、50〜60文字/分くらいはできる。(略)手書きの2倍くらいで、実用上十分である。」
「速記の反訳に使用しているプロは、大体150〜180文字/分にも達する。」
発売から2年といった時点の状況として、ふつうの人はそれほど速く打てるようにはなっていないけれども「人間に相応しいかな入力方式の考察」で目標とした内容は十分に達成できているというご判断であったことがわかります。またOASYSが速記者の方たちには、かなりうまく浸透していったことも窺えます。

ワープロコンテスト (1982)


http://www.ykanda.jp/wp82.htm

富士通の最初のワープロコンテストについてまとめられています。
「このコンテストは富士通がメーカ色を出さない形で行ってきたものです。」
(第1回の優勝者の)「速度は10分間で892文字でした。」
「子供を連れたお母さんが参加しました。」
ワープロコンテストの優勝者はいつも親指シフト、という形で後年営業に利用されてしまう結果になってしまっていますが、当初の目的はワープロの普及のためであって、プロの方が速度を競い合うようなためのものではなかったことが窺えます(それならはじめからもっと速い専門のオペレーターの方を出場させていたはずです)。

後年はプロの方が参加するようになってきて入力速度もかなり上がっていったようですが、M式の森田さんから『他方式によるワープロ・コンテストのチャンピオンは、この略語を千個〜二千個も暗記している由であるが、略語併用の場合の入力速度は、本来の入力方式の良さを示すことにはならない』(日本語だから速く入力できる―ワープロ時代に問うM式キーボード, p.135)と指摘されるようなこともあり、神田さん自身のサイトでもそういった方向での記事は載せられていないように見えます。特に速記者の方たちはOASYSを非常に高度に使いこなされていたわけですが、反訳作業では文章はもう出来上がっているのですから『専門オペレータ以外の者が文章を考えながらタイピングする』という当初の一番の目的とは違うということもあったのかもしれません。

親指シフトキーボードの評価 (1985)


http://www.ykanda.jp/txt/hikaku.txt

1985年、家庭用ワープロの競争が激しくなり、低価格化が進んできた時期の「ワープロらくらく速習法」という本(OASYS用の本のようで実物は見たことがありません)での比較的科学的な実験結果を紹介されています。
「ワープロ未経験者の20~30才の女性を10名選んで、テスト」
この実験では「ワープロ未経験者の20~30才の女性を10名」の場合、練習時間20時間の段階では親指シフトが50字/分、ローマ字が32字/分で1.6倍近く確かに差が付いているのですが、その後さらに練習時間が増えていくと両者の差は小さくなっていきます。このテストから言えることは、初心者が手書き程度の速度で打鍵できるようになるまでの練習時間は、親指シフト方式がローマ字入力やJISかな入力に比べて短い、というものでしょう。実際親指シフトはそういうことを目指して作られたものなのですから、うまく作られていたわけです。ただ、現在言われるような1.7倍速いというのは単純な打鍵数の比較であって、実際の入力に要する速度に関してはそういう結果は示されていないという点には注意が必要です。

まとめ


「文章を考えながらタイピングするのに適している」という目標を持って開発された親指シフトが、作家の方などにとても高く支持されていることは現在でもときどきニュースになります。書いては直し、という作業をするときにふつうの人が一番良く使うのはBackspaceキーですが、親指シフトキーボードではこれがJISキーボードのコロンの位置(右手小指のホームポジションの右隣)にあります(※2)。プログラマーだとそれはちょっと困る、ということにもなりそうですが、日本語の文章を書くために必要なものは何か、という工夫が親指シフトにはほかにも何点もみられます。

※2 NISSEのNicola(親指シフト)タイプも、これまでのところすべてコロンの位置がBackspaceになっているF型で出荷しています。

一方、設計当初の想定は大人になって初めてキーボードに触る、というものであった点については注意が必要でしょう。こどもの頃からパソコンに触っていて、大人になってローマ字入力で150字/分といった速度になっている方もふつうにいる、という今の状況を当時はほとんど想像していなかったように思われます。そういう方が親指シフトに変更して1.7倍速くなり、神田さんの言われるプロの方の180文字/分よりも速い255字/分が短期間で可能、というようなことはまったく検証も想定もしていないのに、「1.7倍速い」といった宣伝用の言葉だけが独り歩きしてきてしまっている印象は強くあります。

親指シフトのほとんどの人にとって良い所は、かな文字換算で同じ入力速度なら、指の負担はローマ字入力の1/1.7程度で済むこともあって楽、といった部分になるでしょうか。キーボードを利用しているときの筋作業については、手指の動的筋作業(dynamic muscle work)と前腕などの静的筋作業(static muscle work)とに分けられていますが、エルゴノミックキーボートが対処しようとしているのは後者です。タイパーの方たちのように高速に指を動かされているような場合に手指の負担を軽くするような効果はエルゴノミックキーボートにもあまり見込めません。ですのでエルゴノミックキーボートを購入されるほど長時間日常的にタイピングするような人にとっては、打鍵数自体を減らす親指シフト方式はとても優れたものになっている(そのためやはりシフトキーの打鍵に親指を使うTRONも合わせるとNISSEでの割合は30%にもなっている)、ということのように思います。

これからかな入力をはじめよう、という検討をされている方のご参考になれば、ということで今回は終わりです。

2014年12月26日金曜日

新キーボード プロジェクト? - NISSEをアメリカへ

We are now accepting orders for the Esrille New Keyboard − NISSE from the United States. The following is the story to make sure that NISSE is in compliance with the FCC rules as a Class B peripheral device.

※ 今回専門的な内容が多いので、より正確な詳細については『詳解 EMC工学』(東京電機大学出版局, 2013)などをご参考になさってください。



前回から半年近くぶりのブログです。今回はNISSEの完成品をアメリカ向けに届けられるようにするまでのお話です。

NISSEは受注開始前から海外の方からもお問い合わせを頂くことがあったのですが、デジタル電子機器の販売や輸出は多くの国でなんらかの制限があり、単に海外へ送れば良いというわけにはいかないところがあります。

アメリカでデジタル電子機器を販売する場合には、ほとんどの場合その機器がテレビやラジオの受信を妨害したりすることがないことを事前に測定しておく必要があります。昔はパソコンの電源を入れるとラジオからピーっとノイズが聞こえてくるようなことがよくありましたが、そういうことが起きないように規制がなされているのです。

そういった規制を監督しているのが連邦通信委員会(FCC)で、メーカーは製品がFCCのルールに適合していることを事前に確認して、製品にFCCロゴをつけた(あるいは表示できるようにした)上で、はじめて販売を開始することができるような枠組みになっています。

Makersムーブメントの流れのなかで、アメリカではこの規制がMakersにとってひとつのハードルになっていて、sparkfunの記事でもまとめられています。電磁妨害(EMI)の測定には1,000ドル程度かかるので、小さなMakerがごく少数のガジェットを販売する際にはコスト面での負担も意外と大きなものになります。試作品で測定結果に問題があれば、試作品を作りなおして再測定する必要があり、また1,000ドルかかってしまうためです。

パソコンのキーボードのような周辺機器もFCCの規制対象になります。これを日本からアメリカに輸出する場合、一義的には FCCの規制に適合していることに責任をもつのは輸入者ということになっていますが、EMIの測定結果についてはメーカーから提示したものを頼って良いことになっています。

そこで今回はEMIの測定をエスリルで行っておくことにしました。日本はアメリカと相互承認協定(MRA)に合意していて、2008年からFCCの認定した日本国内の測定サイトで試験を行えば、その結果をもってFCCのルールに適合していることを証明するデータとして使えるようになっています(認定済みのサイトはFCCのTCB Searchで検索できます)。

事前試験


電波暗室でEMIを測定する場合にはそれなりの費用は発生するので、まずは事前に簡単に測定を行って、基本的な問題がないことを確認しておきました。測定時にはスペクトラムアナライザがあればベストなのですが、今回は当初は、RTL2832U+R820TドングルとRTLSDR-Scannerの組み合わせを使って測定していました。1回の測定に分単位の時間がかかるという点以外は、特に問題なく使えます。その後、多少高くなりますが(それでもスペアナとしては非常に安価)、EMCの専門家の方も"a great EMC troubleshooting tool"と紹介されているRF Explorer 3G Comboを利用しています。RF Explorereはずっと高速に測定ができるので、測定点数が多くなってきた時にはよい選択肢かと思います。

最初に測定しておいたのは、制御基板のマイコンやクロック周辺の近傍界です。

近傍界の測定
近傍界の測定プローブは、同軸ケーブルでループを作ってハンダ付けをした自家製のプローブを使うことができます。これをRTLSDR-Scannerで測定すると下図のような結果を得ることができます。

近傍界の測定結果

この結果では、USBマイコンが作っている96MHzのクロックとその高調波などが見られます。クロックなどのノイズは必ずあるものなので、それをどのように抑えるかという点については、Intelから "EMI Design Guidelines for USB Components" といった資料も公開されています。

自作のプローブを使った場合、絶対値として正確な測定はできないので、FCCロゴ付きの他の機器の基板も同時に測定して比較することによって、 NISSEが他の機器と比べて良いのか悪いのか(≒FCCで問題なさそうかどうか)を判断するようにしました。FCCロゴ付きの他社の機器からNISSEよりも大きなノイズが出ているのを発見したときには、すこし安心できたのでした(笑)。

また『詳解 EMC工学』で勧められている通り、ケーブルからの放射をテスト機材のすべてについて事前にテストしておきました。測定に使う簡易的な電流プローブも、フェライトコアなどを使って自作することができます。

ケーブルのコモンモード電流の測定

ケーブルからの放射につていは、自分たちのデジタル機器だけでなく、本試験の時に使用するパソコンや周辺機器を接続しているすべてのケーブルについて測定しておきます。

予備試験


事前試験でさまざまな機器のデータが揃ってくると、事前試験を終えた後でそのまま本試験に進むことも考えられると思うのですが、今回は本試験の前に電波暗室でも予備試験を行っておくことにしました。

本試験はFCCの認定した測定サイトでなければ認められていないこともあり、費用的には高くなりますが、地方公共団体の保有している電波暗室や、未認定の電波暗室を利用すると比較的安く予備的な試験を行えます(地方公共団体によっては認定済の測定サイトを非常に安価に利用できるにしている地方もあるようです)。

NISSEも京都府の電波暗室で2回予備試験を行いました。

EMI予備試験風景

1回目はNISSE自体に問題がないかどうかの確認が主目的だったこともあり、パソコン等の機材は日本製のVCCIロゴのみでFCCロゴはない機材で行ったのですが、これは失敗でした。NISSE自体に問題はないことは確認できたものの、同時に持っていっていた別の周辺機器がFCCの規制値を超えてしまっていて、本番試験の手順では試験できなかったのです。(本番試験はANSI C63.4にしたがって、キーボードとマウスの他にさらに2種類の異なるI/Oプロトコルの機器が同時に接続されている状態で試験をしています。)

結局2回目の予備試験はNISSEの試験というよりも、FCCの基準値をオーバーしない、FCCロゴ付きのパソコンと周辺機器の組み合わせを見つけ出すというミッションになりました。EMCサイトによってはパソコン等の機材を貸し出して下さるサイトもあるようなので、そういったサイトを利用するのもひとつの手かもしれません。

EMI予備試験結果

今回は、2回目の予備試験でNISSEとFCCロゴ付きのパソコンと周辺機器を組み合わせた構成でFCCの基準値を越えないことを無事に確認することができました。近傍界の測定結果と比べてもわかるように、ほとんどのノイズはNISSEではなく、パソコンやその他の周辺機器から出ているものになります。テスト機材の選定に意外と苦労されているというお話はEMCのご専門の方からも聞くことがあります。このあたりもEMCサイトの方に事前にご相談しておくと良い部分かもしれません。

本番試験


事前試験に加えて電波暗室での予備試験も行っていたこともあって、今回本番試験は無事に1回で終えることができました。実際のFCCの適合宣言については、NISSEに関しては台数も少ないこともあって、いまのところ輸入者側でを行って頂く方法をとっています(適合宣言を行うには米国内の住所が必要になるため)。適合宣言にあたってはFCCに何かを提出したりしないといけないといったことはありませんが、将来FCCから万が一何か要請があった場合には、エスリルから提供するEMIの試験報告書などをFCCへ提出することになります。

まとめ


一昨年の10月にエルゴノミック キーボードの話題をはじめだしてから、5ヶ月後の今年3月にはNISSEを製品化して受注を開始し、その9ヶ月後の12月にはアメリカ向けへの受注も開始したりと、想像以上に慌ただしい1年あまりでした。これからはこんな感じで世界中の小さなMakersから色々な製品が出てくるようになってくるのだろうなと思います。

奥山清行さんの著書「100年の価値をデザインする: 「本物のクリエイティブ力」をどう磨くか」の中で述べられている『一個でも一万個でもなく「二〇〇個」を作る技術を』という視点でモノづくりを見てみると、どこのメーカーも作ってくれないと諦めていたようなモノでも意外と小さなMakersでなら作れてしまうというモノもまだまだたくさんありそうですね。

2014年7月13日日曜日

新キーボード プロジェクト? - Bluetooth版NISSEの実験

前回から2ヶ月半ぶりのブログです。おかげさまで新キーボードNISSEも少しずつ出荷が続いています。

さて、新キーボード プロジェクトをはじめてから、ときどきBluetooth版の予定を聞かれることがありました。NISSEはエルゴノミックキーボードとしては小さめとは言え、毎日持ち歩く大きさでもないので少し意外だったのですが、作業スタイルがノートパソコンから、タブレットとキーボードという組み合わせに変わってきているということもあるのかもしれませんね。

Bluetooth版のNISSEの試作品と8inchタブレット

というわけで、Google+にときどき書き込んでいたように、Bluetooth版の実現方法を調べたりしていたのですが、ひとまず試作品が動くところまできたので、今回はそれについてまとめておきます。

LinuxのパソコンからBluetooth版NISSEを接続するところ

BluetoothモジュールRN42XVP


日本国内でBluetooth機器を作る場合は、技適マークが付いている通信モジュールを組み込んで作成するか、独自に電波法が定める技術基準に機器が適合していることの認定を受けないといけません。後者は相当な量産品でもないとコスト的に合わないので、今回は前者で進めています。

技適マーク付きのモジュールを利用する場合、選択肢はいまのところそれほど多くないようで、
  1. Microchip社のBluetooth通信モジュールRN42XVPとマイコンをUARTで繋いで作る、あるいは、
  2. USBホストコントローラ内蔵のマイコンとUSBのBluetoothアダプタ(ドングル)を繋いで作る、
の2択くらいが簡単に入手して試すことができそうな様子でした。

今回の試作品では、USB版のNISSEで使っているマイコンPIC18F4550にはUSBホストコントローラ機能がないということもあって、RN42XVPを使ってみることにしました。

ブレッドボードで実験中(左側の赤い基板がRN42XVP)

上の写真はブレッドボード上に実際にRN42とPIC18F4550をつないで組んでみた様子です。RN42を使ってBluetoothキーボードを作る場合は、RN42をHIDキーボードプロファイルを使うように一度設定して、あとはUSBで送信するときと同じ形式でキースキャンコードをマイコンからRN42に向けてUART経由で送信するだけで良いのでわりと簡単です。

実験用基板


RN42の基本的な動作を確認できたところで実際に基板に起こしてみました。

RN42XVPを組み込めるようにしたNISSEの基板

今回はBluetooth用のNISSEのファームウェアの開発がある程度進まないと電池の持ちが非常に悪いことが予想できたので、電池の代わりにLiPoバッテリーを組み込んでUSBから充電できるようにしてみました。

充電中のNISSE

充電中は背面の制御基板に付いているLEDが点灯します(充電が終わると消灯します)。背面のLEDの左側に電源スイッチが付いています。

参考までに今回の基板の回路図を載せておきます。キーマトリクスやLEDの部分はUSB版のNISSEと共通です(ピン配置はリビジョンによって変わっています)。

制御基板の回路図

制御基板はUSB版のNISSEと兼用できるようにした関係で、LiPoの3.7VからPIC18F4550用に5Vに昇圧したり、RN42XVP用にそれを3.3Vに変換したりと、ちょっと大げさなことになっています。

注意: LiPoバッテリーは必ず保護回路を内蔵したものを使ってください。LiPoバッテリーの取り扱いにはくれぐれもご注意を。

RN42XVPまわりの回路図



RN42XVPまわりでは、GPIO4は工場出荷状態へのリセット用、GPIO5がBluetoothの通信状態のモニターLED用になります(試作品ではPICのI/Oピンに接続してファームウェア側で未接続時にキーボード本体の青色のLEDが点滅するようにしています)。

ファームウェア


ファームウェアについてもGitHubに公開してあります(firmware/bluetooth/MPLAB.XをMPLAB X IDEで開いてビルドできます)。いまのところは単純にBluetoothで動くというところまでの実装で、少電力化の工夫などが入っていません。そのため、実際のバッテリーの持ちは接続するLiPoバッテリーの容量にもよりますが接続状態で数時間から長くても10時間はもたないような感じです。いまのところ毎晩充電しておいて使うような感じですね。

USB版と利用時に異なるのは、FN-F1を押した時の表示が、

esrille nisse bt
rev. 3
ver. 0.11
copyright 2013, 2014 esrille inc.
f2 104a
f3 us
f4 tron
f5 d12
f6 c
f7 goog
f8 c-c
3.6v

といった具合に変わります。1行目の最後にbtと付いているのがBluetooth版ということになります。それから最後の行にLiPoバッテリーのおよその電圧が表示されます。使っていると充電完了時の4.2v程度からLiPoバッテリー側の過放電防止のリミット2.7v程度まで下がっていきます。

またFN-ESCでBluetoothの接続を強制的に切断できます。

それからRN42でひとつ残念な点が。RN42では、USBのキーコードが0x65より大きなキーを使えないようです。英語104キーボードであればこれで問題ないのですが、日本語キーボードでは、変換(0x8a), Macのかな(0x90)といったキーが使えないので、日本語キーボードを無線化する用途には使えないということになってしまいます。具体的には、RN42が送信しているキーボードのHIDレポートデスクリプタ内で使用するキーのIDの上限値が0x65となってしまっています。マニュアルにはこれを変更するような方法の記載がないのですが、ひょっとして何か方法があったりするでしょうか?

まとめ


というわけで今回はRN42XVPを使ったBluetooth版NISSEの試作品を紹介しました。Bluetoothモジュールを利用する形でBluetoothキーボードのハードウェアを作るのはそれほど困難ではない一方で、電池を長持ちさせるためのファームウェア側の工夫は別にちょっと必要になりそう、という感じです。それからBluetoothモジュール側のファームウェアを修正したい場合どうするのか、という部分も課題かもしれません。

補足: 今回の試作品は当面のファームウェアの開発・実験用に用意したものなので、このまま完成品としてお配りする予定はありません。LiPoバッテリーの扱いなどに慣れている方向けの開発キットという形であれば基板はありますのでお尋ねください。


2014年4月23日水曜日

新キーボード プロジェクト? - NISSEの受注販売受付中です

このブログも前回から4ヶ月以上たってしまいました。前回、
ちなみにこの新キーボードを大量生産するという話はまったくありません(笑)。もし5セット以上需要がありそうであれば基板メーカーにまとめて作ってもらうようにもう少し進めてみますので、基板だけでもほしいという方がいましたらお気軽にご連絡下さい。
と書いて締めくくっていたのですが、その後予想以上の応援もあって、表題の通り新キーボートの完成品の受注生産を先月からはじめています。Google+などではお伝えしていましたが、毎回、話が飛び過ぎですね。

新キーボード、ニューキーボードと特に製品名をお知らせすることもなくここまできてしまっていましたが、NISSEという名前でお届けしています。ニッセというのは、赤い帽子をかぶった小人さんたちの北欧での呼び名です。このキーボードの中にも住んでいて、夜中プログラムのバグをこっそり直したりしてくれていたらいいな、と(笑)。
ESRILLE NEW KEYBOARD − NISSE

NISSEの完成品は、アルミ筐体になって下の写真のような形になりました。プロトタイプからは、小指まわりのキー配置をより打ちやすいように微調整したり、筐体にふだん手があたることがないように少しデザインを変更しています。

エスリル ニューキーボード − ニッセ (完成品)
購入をご希望の方は、NISSEの公式ページ http://www.esrille.com/keyboard/index.ja.html よりお申し込み頂けるようになっています。(いまのところ、日本国内向けのみになります。)

というわけで(?)、今回はGoogle+の方に書いたりしていたエルゴノミック キーボード関連のお話などを簡単にまとめておきます。

NISSE, TRON, M式, ...


海外のキーボードの記事でも、
A year 2014 version of the TRON keyboard is the Esrille New Keyboard. − Japan M-Type keyboard, TRON keyboard
とまとめられていたりと、NISSEの全体的な印象はオリジナルのμではないTRONキーボードと同じように感じられる方も多いようです。NISSEは、現在では残念ながら販売されていないけれども何年もオリジナルのTRONキーボードに小指の部分以外は一切不満はなかったという経験と、
  1. 基板サイズは片側最大15cmx20cm(DIYでも作りやすいように),
  2. キーピッチは18.8mm(広く流通しているMXスイッチのキーキャップをそのまま使えるように),
  3. あまりエルゴノミックし過ぎずデザインは控えめに,
という制約を決めた中でデザインしたものです。

TRONキーボードとの比較

上図はNISSEとTRONキーボードのキー配置を比較したものです。虹色がNISSE、アクアマリン色がTRONキーボード(Mサイズ)のキー配置です。TRONキーボードは、標準のMサイズのキーピッチが16mmとなっていてデジタイザの部分を除くと意外と小さなキーボードでした。

キーピッチについては、UC Berkeley校の昨年の研究[1]で、アメリカの指の長い男性でも17〜19mmではタイピング速度に違いがでないという結果が報告されています。そうであれば、手の小さい人のことを考えれば17mm近くまで小さくした方が、という流れが起きることが今後期待されているところです。

NISSEもはやくも17mm版に期待してくださる方もいらっしゃるのですが、現状ですと17mmのキーキャップを新規に金型から用意して、ということになってトータルのコストが現状以上になりそうなのが課題です。

そしてもうひとつ、ほとんど知られていなかったのではないかと思うのですが、NISSEにもっとよく似たキーボードが30年も前に試作されていたようです。

M式鍵盤の試作品 (NEC)
上の写真は、M式を考案された森田正典さんの論文[2]を昨年末にたまたま見ていて見つけたM式キーボードの試作品の写真です。時期的には1983年以前なのは間違いないなさそうです。M式キーボードもNISSEのように試作段階では扇型のキー配置だったものが、製品化の段階で格子状に近いキー配置に変更になったということのようです。その理由としては「この試作品に基づき,工業製品としての見地から改良を図った」とのことで、試作品の写真をよく見ると扇型に配置してできるキーとキーの隙間を埋めるようにキーキャップがデザインされていて、コスト等の問題があったのかもしれません。(キーピッチもフルピッチではないようにも見えます。)

ちなみにエルゴノミック キーボードの原点は、1934年にドイツのライプツィヒでJulius Kupfahlさんが発明されたタイプライターにまで遡れるようです。第2次世界大戦まではゆっくりと生産台数が伸びていっていたものの戦争によって製造が中断され、残念なことに戦後製造が再開されることはなかったそうです[3]。

まとめ


というわけで今回は兎にも角にも新キーボート改めNISSEの受注販売をはじめました、というお知らせでした。仕様等については公式ページを参照してください。特殊なドライバなしに通常のIMEを使って親指シフトやTRONかなを使って入力できる、という日本語キーボードとしての側面もあったりするのですが、その話はまた別の機会に。


[1] http://hfs.sagepub.com/content/55/3/557
[2] 日本文入力方式と鍵盤方式の最適化, 森田正典,電子情報通信学会論文誌 D Vol.J70-D, No.11, pp.2047-2057, 1987/11.
[3] http://books.google.co.jp/books?id=nwhpagXq2BMC&lpg=PA133&ots=1-Prs5u_iw&dq=daumenschalt%20tastatur%20Rheinmetall&hl=ja&pg=PA133#v=onepage&q&f=false
 

2013年12月6日金曜日

新キーボード プロジェクト? - プロトタイプ1号機

前回からすこし時間があいてしまいました。今回はいきなりですが実際に動く新キーボードのプロトタイプが完成したので、そこに至るまでの経過をまたまたGoogle+への投稿を再編集したりしつつ、まとめていきます。

新キーボードのプロトタイプ

立体配置 第3版


新キーボードのプロトタイプは前回のモックアップではなくて、立体配置第3版を元に作っています。下のモックアップの写真と上のプロトタイプの写真を比べると、 F5からF8キーの位置が変わっているほかはモックアップと同じように仕上がっていることがわかるかと思います。

立体配置 第3版のモックアップ
立体配置 第3版では、中迫勝先生の「キーボードの手前端の高さを低くすることによって机上面との段差をできるだけ小さくすれば、机上面を手・腕の支持台の延長として利用できると考えられる。」という考え方を第2版よりも推し進めて、本体手前端外側の一番低い部分を高さ4mmまで下げました。

ここまで端を下げるとパームレストを別途付けなくても、日本人の標準的な男性の手の大きさであれば特に違和感なく使うことができます(5, 6キーにもこのままで無理なく指が届く人が多いかと思います)。そのかわりに手のひらで押す位置に用意していたCtrlキーは高さを下げるのに障害になる ので親指側に移した他、傾斜を前方向と横方向にそれぞれ10°と第2版の5°よりもきつくしています。(これはどちらもふだんパームレストが不要になるこ とのメリットの方が大きいという想定での変更です。)

また、このモックアップでもう1つ違うのが親指用キーのあたりに配置していたカーソルキーを削除している点です。ひとつには手前端の高さを下げるためでもあるのですが、正直なところ邪魔なのでした。どちらにしてもホームポジションから手を離すなら、やっぱりオーセンティックなIBMのキーボードの位置の方が使いやすいように思います。

ただこのモックアップのまま作るとカーソルキーがまったくないのでどうするかというと、一見SHIFTキーに見えるキーが実はfnキーになっていて、fnキーを押しながらオレンジ色のキーを押すとそれがカーソルになるという具合になっています。この方がホームポジションから手もあまりずれないし、そういう使い方が合わなければ横にカーソルキーのユニットを置けばいいし、ということで結構割り切った作りになっています。

ちなみにSHIFTキーはTRON英語キーボードの流れを組んで、親指用キーのうち内側から3番目のキーがSHIFTキーになっています。もっともPICマイコンで制御しているので、ファームウェアを変更すればどんな配列にもすることができます。TRONかな配列はもちろん、親指シフト(Nicola)を使われている方にも向いているのではないかなぁと思います。

基板設計 ― KiCadとFreeRoutingで自動配線


今回、いきなりプロトタイプまで完成してしまっている一番の理由はKiCadというフリーのEDAソフトウェアの存在です。以前はソフトウェアに費用を掛けずに済まそうとすると、プリント基板の自動配線ができるソフトウェアは基板サイズに制限があったり(キーボードはパターンは単純だけれど基板サイズが大きいので使えなかった)、パターンの配線はすべて手作業だったりと、ちょっと基板を作ってみようという雰囲気ではなかったのです。それがKiCadだとFreeRoutingというソフトウェアと組み合わせて、基板の設計図上に部品の配置だけすれば配線は自動的にできる[1]ということで、試してみました。

自動配線してもらうためには回路図を描いておかないといけないので、回路図エディタでまず作図しておきます。

制御基板の回路図

鍵盤基板(右手側)の回路図

PIC18F4550まわりの回路はICの仕様書に記載があります。PIC18F4550は内蔵されているプルアップ抵抗を使えるのはポートBとポートDだけ、というのがちょっと注意点ですね。左右の鍵盤部分はふつうのキーマトリックスの回路です。回り込みを回避するためのダイオードは全部のキーにつけるのも大変なので、今回は一部のキーに限定して付けてあります。(ジャンパーが回路図にある理由は後述。)

続いて図形エディタで作画したキー配置図を基板エディタに読み込んで(Bitmap2componentを使って配置図を部品化して読み込んでいます)、実際にキーを配置していきます。基板に部品を置くだけなので、スイッチの配置を図形エディタで描いてあれこれ考えるのとそこの手間はほとんど同じです。

プリント基板エディタで部品を配置

配置できたらFreeRoutingに自動配線をさせてみます。両面基板を使える場合だとあっという間に配線が完了します。今回は感光基板を使って作りやすいように片面基板(表がジャンパーで裏が銅パターン)で作るので、配線と配線が交差しそうなところにジャンパー(0Ω抵抗)を回路図に追加して基板上に配置してからFreeRoutingに配線させてみて、うまく行かないようならまたジャンパーを追加して配線させてみて、という手順で作ってみました。

自動配線を終えて外形線とベタを追加したところ

KiCadは、はじめて使ったのでまだベストな使い方をできているかどうかわからないのですが、手作業で配線したりすることを考えると基板作りは相当に楽になりました。KiCadは日本語の情報交換サイト(kicad.jp)もあるので、すこしずつ使いこなせるようになったらいいな、というところです。

今回使ってみたところでは、FreeRoutingは 45°以外の斜めの外形線があると周辺をうまく使って配線できないようなので、まずは外形線を引かずに自動配線を終わらせて、外形線から飛び出しそうな配線があれば、ツールバーからDragを選択して内側に押し込めたい配線の外側から内側へマウスをドラッグして配線をまとめて移動して、後から外形線を引くようにするとうまく行きました。Drag中はネジ穴とか動いてほしくない部品まで動かそうと思えば動かせてしまうようなので、そこはちょっと注意です。

またネジ穴用に用意したNPTHホールにローカルのクリアランスを設定してあったのですが、ローカルのクリアランスの情報が自動的にはFreeRoutingに渡されていないようで、FreeRoutingに.dsnファイルを読み込ませるまえに.dsnファイルを編集して穴径をクリアランスを含めたサイズ(FreeRouting内部では円は正8角形で囲う形で処理しているようです)にテキストエディタで修正したりしています。

兎にも角にも試しでKiCadを使ってみたところ、数時間もあれば写真のような基板パターンを作れてしまうことが判明して、それならということで今回一気にプロトタイプまで作ることにしてしまったのでした。

基板作りと組み立て


ここまでできると、基板を作って組み立ていくことができます。最近は特に小さなサイズの基板は基板メーカーに発注してとてもやすく作ってもらうことができるようになっているようですが、今回は感光基板を使って組みました。

感光基板用フィルム

感光基板を作るときは感光基板用のフィルムがきれいに仕上がっていないときれいな基板が作れません。黒い部分がちゃんとべったり塗られていなかったり、線がかすかにでも途切れていたりするとあとで基板の修正にとても時間がかかったり、最悪フィルムの作成からやり直しということも。すこし高いですがサンハヤトのインクジェットフィルムにエプソンの染料系のプリンタを使って印刷するのが無難そうな感じですね(顔料系のプリンタやレーザープリンタだと、真っ黒に見えている部分も実は点の集まりになっていたり、薄かったり、ということがあるみたいです。ふつうに紙に印刷する分にはまったくわからないのですけれど)。今回はEPSONのEP-705A(年賀状シーズンの所為かネットの最安値よりも近所の電気屋さんの方がさらに安く売っていました)というプリンタで印刷してみました。

フィルムの原稿は、KiCadのプリント基板エディタからSVGファイルを出力するとドリル穴まで空いた原稿を作ることが出来ました。

鍵盤基板(右手側)とその部品
きれいなフィルムができたら、露光、現像、エッチング、外形加工、穴あけという手順で上の写真のような基板ができあがります。ここまでできれば、もう中学校の技術家庭科で習った範囲で作れますね。

基板の組み立て完了
こんな感じで左右の鍵盤と制御基板の計3枚を作ってFFCで繋げたら基板の組み立ては完了です(LEDは別途制御基板から右鍵盤にQIケーブルで接続しています)。そしてこれらの基板をアクリル板に固定してハウジングをかぶせたものが最初に載せたプロトタイプの写真になります。

アクリル板に固定した基板とハウジング

注意: この一連の作業の内、現像とエッチングは薬品を使うので誰にでもお勧めというわけではありません。基板メーカーに発注したり、CNCでプリント基板を作る[2]こともできるようなので、そのへんは使える機材や環境に応じて工夫してみて下さい。ちょこちょこ基板を作るような予定がなければ、必要な機材を揃えるよりも基板メーカーに発注する方が安く済みそうに思います。

ファームウェア


「コンピュータ ソフトなければ ただの箱」という言葉がありますが、PICマイコンを使ったこのキーボードもマイコン用のソフトウェア(ファームウェア)がなければ、ただのおもちゃで、マイコンの中のフラッシュROMの中にファームウェアを書き込んであげる必要があります。

PICマイコンの開発環境はmicrochip社からMPLAB Xという統合開発環境が無償で提供されています(以前のものと違ってWindows以外のOSでも利用できます)。またPICマイコンをUSBキーボード化するファームウェアは、Microchip Libraries for Applicationsをダウンロードすると、Device - HID - Keyboardというデモがあるので、これをベースに作っていくことができます。ボードのコンフィグレーションは、PICDEM_FSUSBがPIC18F4550のものなのでそれをもとに新キーボードの回路に合わせて変更していきます。

ただ肝心のソースコードの内USBのデモが新しいXC8コンパイラに未対応なので、jtemplesさんがmicrochip社のフォーラムに投稿されたものに差し替えるとうまくコンパイルできるようになります。

ファームウェアが出来上がったら、PICKit3などを使ってキーボードのPICマイコンにプログラムして(書き込んで)完成です。

まとめ


今回は新キーボードのプロトタイプができあがりました!、というお話と、どんな風にキーボードを作っているかというお話を簡単にまとめてみました。今回のこのブログも新キーボードで入力しています。自分の手に合うことはちゃんと確認してから作っているのでまあ当然ですが、なかなかいい感じで使えています。 :-)

あとは3Dプリンタでハウジングを作ったりできると楽しい感じですが、今回の新キーボード シリーズはここまでです。ガジェットを作るのもどんどん簡単になってきていますね。

ちなみにこの新キーボードを大量生産するという話はまったくありません(笑)。もし5セット以上需要がありそうであれば基板メーカーにまとめて作ってもらうようにもう少し進めてみますので、基板だけでもほしいという方がいましたらお気軽にご連絡下さい。


[1] http://toragi.cqpub.co.jp/tabid/670/Default.aspx
[2] http://www.fumi2kick.com/komekame/archives/1656

2013年11月2日土曜日

新キーボード プロジェクト? - モックアップの制作と立体配置の検討

今回は新キーボードの立体的な配置とハウジングについて、Google+に書き込んでいたものを整理しておきます。

新キーボードのモックアップ

モックアップ作り


前回までで平面図上では18.8mm改定版でOKな感じになってきたので、モックアップを作りながら、さらに立体的な形状についても確認していきます。


モックアップ作り

上図はプリント基板に見立てたスチレンボードにキーの配置図を貼り付けて、その上にキーキャップを置いてみたところです。(このやり方以外に、MXスイッチも入手済みであればスタイロフォームとかにスイッチごと刺してテストするという手もあります。)

今回、一番気を使っている、手首を固定したまま[6]キーまで指が届くフルピッチ キーボード、という設計意図は無事にクリアできた感じです。逆に発覚した問題点は、
  1. [→]キーがちょっと手のひらに当たってしまう、
  2. 一番外側の親指用のキーは外側に行き過ぎ、
という2点。この部分を先に修正していきます。

補足: ちなみに写真のMXスイッチのキーキャップは、FILCOのオンラインショプで購入したもの。WASD Keyboardsみたいにレーザー刻印までカスタマイズできる日も来たりするといいですね。:-)

キー配置調整


実際にキーキャップを配置してさわってみると、フルピッチではそれぞれの親指が4キーずつ担当するというのはちょっと無理があるということで、平面図を修正しました。

18.8mm(L) 平面図(調整版)

親指については左右3キーずつ担当するように計2キー減らしました。かわりに5段目に薬指用のキーを左右1キーずつ追加しています。また、カーソルキーは1ピッチ内側に寄せて、手のひらに当たることがないようにしました。

補足:  調整版の平面図には、ファンクションキーとPrtScnからNumLockまでの16キーも追加してあります(このへんはエルゴノミックである必要はそれほどないので一例です)。このレイアウトでは感光基板で自作する場合のために150mm×200mmの範囲に左右それぞれ収まるようにしてあります。(サンハヤトの卓上エッチング装置で簡単に作れるのがこの大きさまでなので。)

基板部分のモック

調整版では、手の小さいひとでも、5段目のCtrlキーと薬指用のキー(いわゆるWindowsキー)の間に手のひら側面を入れるような感じで使うと(縦1ピッチ分距離を稼げるので)、[5]や[6]キーまで楽に人差し指が届くようになるひとが多いんじゃないかな、と思います。

CtrlキーとSpaceバーの間の隙間


モックをさわりながら新キーボードのキー配置を直していて気づいたのは、CtrlキーといわゆるWindowsキーの間の隙間が意外と重要だったということ。手の小さい人は、この隙間に手のひら側面が来るようにすると指が届く範囲が縦1ピッチ分広がる感じになります。

この隙間、実はかつてはどのPCのキーボードにもあったものです。そして特に手の小さい人にとって、かつてCtrlキーとSpaceバーの間にあったこの隙間はたぶんすごい意味のあるものだったろうという気がします。

http://en.wikipedia.org/wiki/AT_keyboard より

今Windowキーを間違って押さないように手首を動かして数字キーを押している手の小さな人も、この隙間が残っていればもう少し簡単に押せた筈です。今でもゲーミングキーボードだと誤操作しないようにWindowsキーを無効化できるのがふつうになっていることからも、この位置が微妙な位置だということがうかがえます。

1981年のIBM PCキーボード以来PC/AT、PS/2のEnhancedキーボードまで守られていたこのわずかな隙間がWindows 95と一緒にWindowsキーで潰されてしまったのは、ちょっとした悲劇だったのかもしれません。

場所がなかったわけではなくて、スペースバーを分割しないといけなかった日本語用のAXキーボードでも、106キーボードでも、この隙間だけは残していたのにちょっと不思議な感じさえあります( http://www.pfu.fujitsu.com/hhkeyboard/kb_collection/ )。

もっとも最近のほとんど真っ平らなノートパソコンとかのキーボードでは問題ではなかったりするので、このことは再検証されることはもうないかもしれませんね。

立体配置とパームレストのデザイン ― 逆傾斜版


キー配置に残っていた問題も解消できたので、キーボードの立体的な配置についても、モックアップを作りながら検証していきます。

もともと新キーボードは微妙に前方に逆傾斜をかける方向で考えていたのでパームレストが必須です。前回載せたイメージ図のようにドーンと大きなパームレストをつけてしまうのが楽は楽なのだけれど、それだとあまりエルゴノミック、エルゴノミックさせない、という新キーボードの目標から遠くなってしまうのが難しいところでした。

逆傾斜版のモックアップ

新キーボードではCtrlキーといわゆるWindowsキーの間にスペースがあるので、もともとZキーの下から50mmほどメインパーツ上にもパームレスト に使える部分があります。

そこで上の写真のモックアップでは、必要最小限の大きさのパームレスト パーツを手前につけて、なるべくおとなしめなデザインにすることを目指しました。手前の追加パーツは奥行きが20mmあるので、この状態でパームレストの奥行きは計70mmになります。手の小さい人はこの状態で十分なひともいると思います。

このパームレスト パーツは手前に引き出すことができます。下の写真はパーツを手前に10mm引き出したところ。これで奥行き80mmになるので、ほとんどの人に十分な長さになっていると思います。

パームレスト ユニットを引き出したところ

最初からパーツの奥行きを30mmにしたらいいのに、という声もありそうですが、チルトスタンドとかキーボードにはこういうちょっと動くパーツがあった方が楽しいよね、というだけだったりします(笑)。

『前方向と横方向にそれぞれ10°傾斜』の謎


さて、組み立てたモックアップを見ながら最初の印象は、キーボードに逆傾斜をかけると中央部分がやっぱり高すぎだよなぁ、というものでした。赤い板の頂点の部分で5cm弱あります。ということでちょっと調査してみました。

モックアップは中央方向へは(エルゴノミック キーボードでよく採用されている)10度の傾斜がかかっているのだけれど、その根拠は「キーボードの人間工学的設計」という1986年の中迫勝先生の論文まで戻ることができました。 あらためて読んでみると「支持面を大きくするために前方向と横方向にそれぞれ10°傾斜させ、前腕全体を支持できるようにした」とあって、支持面(アーム レスト)を大きくすることがゴールで、そのためには10°くらいの傾斜が最適ということだったようです。

最近は前方向の傾斜は手首の負担を考えて否定されているけれど、もとの論文はそういったことを言っていたのではなくて、前腕全体を10°くらい傾斜した支持台の上に置けるとよい、と言っているだけだったんですね。実際に作られていたキーボードの支持面とキー部分の前方向の傾斜は0°。なんという。

となると、キーボードをコンパクトにすることの方が優先度が高ければ、論文にも書かれているように「キーボードの手前端の高さを低くすることによって机上面との段差をできるだけ小さくすれば、机上面を手・腕の支持台の延長として利用できると考えられる。」という考え方を優先してキーボードの立体配置を考えた方が良さそうです。

最近の薄いキーボードだと机のわりと奥の方にキーボードをおいて肘から先を全部机の上に置いて使うのは結構あたりまえのように思うけれど、昔のApple IIとかをみると実はキーボードは今では信じられないような高い位置( 机から5cmくらいありそう)にあったのが割とふつうだったという歴史があったみたいですね。

立体配置 第2版


前方向と横方向にそれぞれ10°傾斜、というよく言われている指針は、キーボード ユニット単独の傾斜のことではなくて支持台(アームレスト)に適した傾斜のことだったということがわかったので、新キーボードの設計方針を以下のように変更しました。
  1. メインのキーボードユニットはなるべくコンパクトにする。
  2. 逆傾斜などはもっと広大なアームレスト(≠パームレスト)とセットで考えることにして、メインのユニットとは切り離す。
ということで、傾斜は前方向と横方向にそれぞれ5°と控えな目な立体配置で作ってみたモックアップが下の写真になります。


新キーボードの立体配置

写真のものはMXスイッチを使う想定で組み立てているので、キーキャップの最下面から本体底面まで16mmの厚みがあります。この状態だと手前の段差が大き過ぎるので、実際に使うときには、カーソルキーの外側のラインからさらに手前に40mm位パームレストがないといけません。(逆に薄型のスイッチで組み立てる場合には、上の写真のように奥行き15cmほどで作ることができそうです。)

また自作等ではんだ付けを簡単に済ませたい場合はマイコンはDIP(Dual Inline Package)版を使うことになると思いますが、その場合上の写真のサイズに収めるのはちょっと難しそうです。

下の写真は、DIP版マイコンを使う場合の基板が緑色の板のサイズくらいになるので、これを手前中央に配置することにして、それを覆うような形でパームレスト部分を作ってみたものです。パームレストはZキーの下から手前に8cmとってあります。また全体の奥行きは約20cm、ほぼA4サイズになりました。

パームレスト一体型の新キーボードのモックアップ

まとめ


というわけで、今回はひとまず2つ目のモックアップが出来上がったところまでです。

実際に使用する場合は、机の上に前腕を置いて新キーボードのパームレストの上に手のひらを載せた姿勢で使う感じになります。この立体的な形状が本当に使いやすのか、疲れにくいのか、といったところは多少時間をかけて評価してみないとですね。

2013年10月26日土曜日

新キーボード プロジェクト? - 18.8mm改訂版と評価

今回は新キーボードのキーピッチ18.8mm版(L)の改定と評価について、Google+に書き込んでいたものを整理しておきます。

その前に前回、「(エルゴノミックキーボードと)長方形のキーボードとの比較はあまり意味がない」とあっさり書いてしまったので少し補足。エルゴノミック キーボードと長方形のキーボードの一番の違いは、「長方形のキーボードは手および手首をキーボードから浮かせて使うもの」で「エルゴノミック キーボードは手首をパームレストに置いたまま使えるようにしたもの」ということ。「特にコンピュータを長時間操作するときは、…手および手首をキーボードから浮かせた状態で入力します。…てのひらや手首をパームレストなどに載せた状態で入力しないでください。」[1]というのが長方形のキーボードの正しい使い方ですね。

Escudoウェブブラウザはバージョン0.4.0を今週リリースしました。修正内容については前々回まとめた通りのものになっています。0.4.1の計画についてはまた別にまとめていきます。

コストのお話


キーボード、自作するといくらかかるの?という心配があるようなので参考までにMXスイッチを使って18.8mmのキーピッチで作るとすると、

  • キースイッチ(87個以上)  6,500円位
  • キーキャップ一式 4,000円位
  • 感光基板(2, 3枚) 3,800円位 (基板を自分で作る場合)
  • USBマイコン(PIC18F4550等) 370円
  • コンデンサー, 抵抗, LED, 配線ケーブル等 1,000円位

といった感じになります。18.8mm以外のキーピッチを使う場合は、キーキャップの入手や加工が結構手間になります。MXスイッチのかわりにもっと小さなタクトスイッチとかもあるのですが、それだとキータッチや寿命に不安があったります(4代目が使えなくなった原因)。

というわけで、失敗せずに作れると合計16,000円位といったところでしょうか。ただ感光基板を自分で作る場合、というのがちょっと罠ですね。欲しい人を集められたり、予算に余裕があればP板.comとかで作ってもらう方がいいと思います。あとはパターン設計とかハンダ付けとか根気と時間です(笑)。マイコンはキーボード用のソースコードが配布されているのでそれをちょっとカスタマイズできるくらいのプログラミング(C言語)ができれば大丈夫です。それから本当に最初はハンダごてとかPICライタとか多少出費がかかります。

さらに格好のよいハウジングがほしいときは、3D CADでSTLデータを作って、光造形屋さんに頼むか、流行りの3D プリンタで自作!

4代目TRONキーボード用のハウジングデータ

ここまでやるとキーボード1台には高すぎですね f^_^;;

18.8mm(L)改定版


部材的にはやっぱりフルピッチ版以外はちょっと…、ということで18.8mm版を再調整しました。設計方針は、両端小指部分は手の小さい人は手のひら側面を軸に腕を回転して使ってもらうことにすることで妥協するかわりに、本来17mm版向きの手の大きさのひとも無理なく使えるようにする、というもの。18.8mm版しか作れなくても、手に合う人を最大限増やそう、と。


気をつけたのは、
  1. あまりにエルゴノミック、エルゴノミックしすぎないようにする、
  2. メインの左上1から右下Bまでの5x4キーの範囲では手の小さい人に支障がないように特に5キーが離れすぎないようにする、
といった点。また逆に手の横幅が大きい人のことも考えて、指を開く角度を17mm版よりもすこし小さくしてあります。

17mm版(M)との比較


17mm版(M)との比較

17mm版と比較すると、上端のラインはほぼ一致していることがわかります。今回の18.8mm版は人差し指の2列が1/4ピッチほど上下にずれた形状になっていて、手の小さい人でも5, 6キーに指が届きやすいようになっています。

そのかわり4段目のZXCVBはややキーの上側を押すことになりそうです。これは悪いことばかりではなくて、手の小さい人だとフルピッチの4段目をタイプするとき指先がキーボード面とかなり垂直に近い角度になってしまうので、爪が当たらないようにスイッチの上側を押す方がよいかな、というのがあったりします。(キーキャップの形状もかなり影響しそうですが。)

Microsoft Sculpt Ergonomicとの比較


Microsoft社の公式ブログ[2]の写真を製品の寸法にあわせて加工したものに、18.8mm版の平面図を重ねてみました。

Microsoft Sculpt Ergonomicとの比較

可能な範囲で人差し指のキーを下げている新キーボードの形状が分かるでしょうか。(新キーボード、横幅が広く見えますが、実際にはTRONキーボードのように中央方向に向かって傾斜していくので、実際に上から見たときはもう少し狭く見えると思います。)

キーボードの立体的な形状までMicrosoft Sculpt Ergonomicくらい工夫できていると、このフルピッチならすこし手が小さくても全部のキーにちゃんと指が届きそうです。

Truly Ergonomicとの比較


同じくフルピッチのエルゴノミック キーボード、Truly Ergonomic [3]との比較です。実物を見たことがないので公式サイトの写真を製品の寸法に合わせて加工したものの上に新キーボードの平面図を重ねてみました。

Truly Ergonomicとの比較

人差し指と親指の考え方にちょっと相違があると思うけれど、それ以外はよくにています。実際にTruly Ergonomicを回転させて比較すると、違いはもうミリ単位になってきています。(フルピッチで作ると、もうそんなにデザイン的な余裕がありません。)

Truly Ergonomicを回転させて比較

全体的にハの字形状の角度の違いや、各列の角度の設定が、新キーボードの方がより手の小さい人向けに合わせている感じだと思います。このあたり、mm単位の指の長さ違いで日本人の人口のカバー率が何十%も変わったりする[4]ので手を抜けないところです。

ちなみに人差し指の部分は、新キーボード < Sculpt Ergonomic < Truly Ergonomicの順で数ミリずつ上に上がっていっている感じですね。実におもしろい。 :P

余談: 僕の予想では人差し指が7.8cm以上あるひとならTruly Ergonomicはかなりいいんじゃないかと思います。新キーボードと重ならない上段両端の4キーは小指はムリでも薬指が届くと思うので、そっちはそんなに心配いらないんじゃなかな、と思います。念のため。

手のサイズに合わないエルゴノミック キーボードを使うのはよくない


ここまで手の小さい人、大きい人、何ミリ上とか下とか細かいことを書いているなぁ、という印象のひとも多いと思います。watchmonoのTruly Ergonomicのレビュー[5]でも「特に手が小さい人は、打ちづらいキーがある→手・腕を動してしまう→全然エルゴノミクスじゃないすか!や だー!・・・・って事になりかねない」と書いてあったりします。

ということで手の小さめの人がどんな手の動きをしているか、というのを示してみたの下図です。マゼンダの枠が薬指・小指を使うときの理想的な手の位置で、グリーンの枠が人差し指・中指・親指を使う時の理想的な手の位置です。人差し指を使うときは手首をやや外側にひねって、腕を少し前に出すような動作が必要になります。これをエルゴノミックだからと手首を置いたままやっていたらレビューのような感想そのままになるんじゃないかと思います。(手の大きい人なら、こうはならないと思います。念のため。)

サイズの合わないエルゴノミックキーボードを無理に使おうとすると

なのでオリジナルのTRON キーボードではL・M・Sとか異なるサイズのキーボードを用意したい、ということになっていました(実際には1サイズしか出ていないそうです[6])。現状ではあまり数がでないエルゴノミック キーボードをさらに数サイズ量産するというのは、ビジネスとしては厳しすぎるのでどれか1サイズで、ということになってしまうのは仕方のないところがあるかもしれませんね。そこで最大公約数みたいなのを探さないといけない、というのはなかなか大変です。

コスト的に可能なら機構的に各指のキーのブロックの位置をCyborgマウスのように調整できるといいかもしれませんね。最悪人差し指のブロックだけでも上下方向に10mmぐらい調整できればかなり違うと思います。(これだけでも機構の他に、基板が1〜2枚増えてなかなかチャレンジングです^^; )

ハウジング


今回、考えているハウジングのおおまかな形状は下図のようなイメージです。

ハウジングのイメージ

最近は昔と違ってキーボードは手前がやや高めで奥に行くほど低くなっていく逆傾斜がかかっている方が手首に負担が掛からなくてよいと考えられている様子です(難点はキートップの字が読みにくい、ということなのだけれど、エルゴノミックを使う人はタッチタイプ前提なのでたぶん問題ない筈)。その場合、パームレストが必須になるので図のように左右下に貼り出した感じになって、TRONキーボードと似ているけれど、傾き方が逆という感じです。

これくらいの形状だと、安く作りたければアクリル板と接着剤でだいたいつくれそうですね。凝るのであれば、カウンタックのリアのようなデザインを取り入れると欲しくなりそうです、たぶん :P

まとめ


というわけで、先日購入したSculpt Ergonomicをしばらく使っていたのですが、本当に微妙に自分の手のサイズに合っていない感じで、このまま使い続けていると新キーボードをすぐにでも作りたくなってしまいそうだったので、ひとまずまだ使えそうな3代目の自作TRONキーボードをひっぱりだしてきてしまいました f^_^;;

3代目自作TRONキーボード

これは2005年ごろに マジェスタッチを分解して部品だけ取ってキーピッチ16mmで組み直したもので、それから3年くらい使っていました。MX茶軸スイッチは8年くらいたった今でも劣化している感じはなくてさすがです。TRONキーボードの16mmピッチは小指の部分が自分の手に合っていないのだけれど、しばらくはこれで我慢。

時間があったらkicadをちょっと試してみたかったりするのだけれども(笑)


[1] http://windows.microsoft.com/ja-jp/windows/using-keyboard#using-keyboard=windows-vista
[2] http://blogs.technet.com/b/firehose/archive/2013/08/13/work-a-pain-new-sculpt-ergonomic-desktop-keyboard-combines-looks-and-comfort.aspx
[3] http://www.trulyergonomic.com/
[4] http://riodb.ibase.aist.go.jp/dhbodydb/hand/data/list.html
[5] http://watchmonoblog.blog71.fc2.com/blog-entry-2775.html
[6] http://ja.wikipedia.org/wiki/TRONプロジェクト