Shiki’s Weblog

小中学生には新しい仮名配列のキーボードを

2017/03/15

注) 平成29(2017)年2月14日に文部科学省が公表した小中学校の次期学習指導要領改定案へのコメントとしてまとめたものです。

 今回の学習指導要領案では、学習の基盤としてローマ字入力を用いてコンピューターで文字を入力する操作の習得が謳われています。比較として、米国の各州共通基礎スタンダードでは、小学生にはキーボードで一回に3ページ以上の作文ができるようになることが求められています。日本語に置き換えれば、1コマ45分で原稿用紙3枚、1分間当たりの文字入力数は少なくとも平均25文字以上といったことになるでしょう。これからの小中学生には、キーボードによる作文能力を国語の「書き方」のリテラシーのひとつとして習得されていくことも期待されます。そのためには、小中学生にはローマ字入力ではなく、キーボードの新しい仮名配列を制定し、仮名入力を指導していくことが必要となってきているのではないでしょうか。

 答申でも触れられている通り、現在の小学生のローマ字入力による文字入力速度は平均5.9文字/分でしかありません。これは単純に練習不足という見方もあります。しかし1951年の文部省の『ローマ字教育実験学級の調査報告』では、30分間の作文力のテストにおいて、対照学級では漢字仮名交じり文で原稿用紙の裏面まで書いている児童もかなり多かったのに対し、実験学級ではローマ字で横罫紙半面しか書いていない児童が多かったことが報告されています。これはローマ字では手書きでも書く速度が1/4程度まで落ちることを示唆するものです。現在の小学生のキーボードを使ってローマ字で文字を入力するときの速度が、目標値の1/4以下になってしまっていることと合致しているのです。

 現在、子どもたちにも身近なものになっている、スマートフォンやタブレットでは、ローマ字入力ではなく、五十音順をベースとしたフリック入力が広く使われています。ローマ字は、その表記にもヘボン式、訓令式、加えて情報機器に固有の非公式なワープロ式などがあり、日本語を自由に書くためのものでは本来ありません。促音の「」は、明治33年以降定着してきた表記ですが、ローマ字では「っ」を別々の子音に分解して、-kk-、-ss-といったように表記しなければいけません。撥音の「」も舌内撥音(n)や唇内撥音(m)などをまとめて「ん」と表記するように平安時代後期になったことが明らかにされていますが、これもローマ字では再度nとmに分解している場面が見られます。現代の仮名文字は万葉仮名から単純な表音文字以上のものに平明化してきた文字であるのに対して、ローマ字表記は日本語を知らない人にも必要なもので、こうした仮名文字の歴史的な進歩には対応できないのです。

 それでもキーボードに限っては小学生の段階からローマ字入力を教えざるを得ないのは、現状では大人になってからも問題なく使い続けられるようなキーボードの仮名配列がないことが理由として挙げられます。現行のJIS仮名配列の問題点は既に広く認識されています。1986年の新JIS配列は廃止という結果に終わりましたが、その理由として、小中学校で使用するコンピューターの仕様決定のつまずきのほか、仮名の配置が完全に不規則で非常に習得が困難なものであったことが挙げられています。数字やアルファベットは、人の名前がなかなか覚えられなかったりするように、認知科学では精緻化(チャンクづくり)がしにくいタイプの情報とされます。新JIS配列のように、専門のオペレーターの作業能率を優先して仮名の配置を完全に不規則なものにしてしまうと、普通の人には習得がとても困難なものになってしまうのです。欧米では、アルファベット順の配列を原型に持つQWERTY配列が現在も主流であり続けています。今日では、短文の入力であればフリック入力や音声入力のような簡便な入力方式が実現されており、キーボードの配列の習得しやすさは従来以上に利用者から求められる条件となっていくと考えられます。

 このようにキーボードの新しい仮名配列の制定は急務であろうと思われます。現在ではキーボードの文字配列の最適化技術により、五十音順との関連付けがあり覚えやすく、かつ新JIS配列と比較しても入力効率で劣らないような仮名配列の設計が可能なことが明らかになってきています。制定にあたっては、過去の様々な失敗も踏まえ、工業的な見地からだけではなく、国語学、教育工学、認知科学といった分野にもまたがった学際的な研究が行われることが望まれます。また国語施策としても、キーボードによる文字入力を国語の「書き方」のリテラシーのひとつと捉え、現代仮名遣いと同様に定着させていくような対応が期待されます。

研究中のかな配列図: 研究中のかな配列(一案)