2014年12月26日金曜日

新キーボード プロジェクト? - NISSEをアメリカへ

We are now accepting orders for the Esrille New Keyboard − NISSE from the United States. The following is the story to make sure that NISSE is in compliance with the FCC rules as a Class B peripheral device.

※ 今回専門的な内容が多いので、より正確な詳細については『詳解 EMC工学』(東京電機大学出版局, 2013)などをご参考になさってください。



前回から半年近くぶりのブログです。今回はNISSEの完成品をアメリカ向けに届けられるようにするまでのお話です。

NISSEは受注開始前から海外の方からもお問い合わせを頂くことがあったのですが、デジタル電子機器の販売や輸出は多くの国でなんらかの制限があり、単に海外へ送れば良いというわけにはいかないところがあります。

アメリカでデジタル電子機器を販売する場合には、ほとんどの場合その機器がテレビやラジオの受信を妨害したりすることがないことを事前に測定しておく必要があります。昔はパソコンの電源を入れるとラジオからピーっとノイズが聞こえてくるようなことがよくありましたが、そういうことが起きないように規制がなされているのです。

そういった規制を監督しているのが連邦通信委員会(FCC)で、メーカーは製品がFCCのルールに適合していることを事前に確認して、製品にFCCロゴをつけた(あるいは表示できるようにした)上で、はじめて販売を開始することができるような枠組みになっています。

Makersムーブメントの流れのなかで、アメリカではこの規制がMakersにとってひとつのハードルになっていて、sparkfunの記事でもまとめられています。電磁妨害(EMI)の測定には1,000ドル程度かかるので、小さなMakerがごく少数のガジェットを販売する際にはコスト面での負担も意外と大きなものになります。試作品で測定結果に問題があれば、試作品を作りなおして再測定する必要があり、また1,000ドルかかってしまうためです。

パソコンのキーボードのような周辺機器もFCCの規制対象になります。これを日本からアメリカに輸出する場合、一義的には FCCの規制に適合していることに責任をもつのは輸入者ということになっていますが、EMIの測定結果についてはメーカーから提示したものを頼って良いことになっています。

そこで今回はEMIの測定をエスリルで行っておくことにしました。日本はアメリカと相互承認協定(MRA)に合意していて、2008年からFCCの認定した日本国内の測定サイトで試験を行えば、その結果をもってFCCのルールに適合していることを証明するデータとして使えるようになっています(認定済みのサイトはFCCのTCB Searchで検索できます)。

事前試験


電波暗室でEMIを測定する場合にはそれなりの費用は発生するので、まずは事前に簡単に測定を行って、基本的な問題がないことを確認しておきました。測定時にはスペクトラムアナライザがあればベストなのですが、今回は当初は、RTL2832U+R820TドングルとRTLSDR-Scannerの組み合わせを使って測定していました。1回の測定に分単位の時間がかかるという点以外は、特に問題なく使えます。その後、多少高くなりますが(それでもスペアナとしては非常に安価)、EMCの専門家の方も"a great EMC troubleshooting tool"と紹介されているRF Explorer 3G Comboを利用しています。RF Explorereはずっと高速に測定ができるので、測定点数が多くなってきた時にはよい選択肢かと思います。

最初に測定しておいたのは、制御基板のマイコンやクロック周辺の近傍界です。

近傍界の測定
近傍界の測定プローブは、同軸ケーブルでループを作ってハンダ付けをした自家製のプローブを使うことができます。これをRTLSDR-Scannerで測定すると下図のような結果を得ることができます。

近傍界の測定結果

この結果では、USBマイコンが作っている96MHzのクロックとその高調波などが見られます。クロックなどのノイズは必ずあるものなので、それをどのように抑えるかという点については、Intelから "EMI Design Guidelines for USB Components" といった資料も公開されています。

自作のプローブを使った場合、絶対値として正確な測定はできないので、FCCロゴ付きの他の機器の基板も同時に測定して比較することによって、 NISSEが他の機器と比べて良いのか悪いのか(≒FCCで問題なさそうかどうか)を判断するようにしました。FCCロゴ付きの他社の機器からNISSEよりも大きなノイズが出ているのを発見したときには、すこし安心できたのでした(笑)。

また『詳解 EMC工学』で勧められている通り、ケーブルからの放射をテスト機材のすべてについて事前にテストしておきました。測定に使う簡易的な電流プローブも、フェライトコアなどを使って自作することができます。

ケーブルのコモンモード電流の測定

ケーブルからの放射につていは、自分たちのデジタル機器だけでなく、本試験の時に使用するパソコンや周辺機器を接続しているすべてのケーブルについて測定しておきます。

予備試験


事前試験でさまざまな機器のデータが揃ってくると、事前試験を終えた後でそのまま本試験に進むことも考えられると思うのですが、今回は本試験の前に電波暗室でも予備試験を行っておくことにしました。

本試験はFCCの認定した測定サイトでなければ認められていないこともあり、費用的には高くなりますが、地方公共団体の保有している電波暗室や、未認定の電波暗室を利用すると比較的安く予備的な試験を行えます(地方公共団体によっては認定済の測定サイトを非常に安価に利用できるにしている地方もあるようです)。

NISSEも京都府の電波暗室で2回予備試験を行いました。

EMI予備試験風景

1回目はNISSE自体に問題がないかどうかの確認が主目的だったこともあり、パソコン等の機材は日本製のVCCIロゴのみでFCCロゴはない機材で行ったのですが、これは失敗でした。NISSE自体に問題はないことは確認できたものの、同時に持っていっていた別の周辺機器がFCCの規制値を超えてしまっていて、本番試験の手順では試験できなかったのです。(本番試験はANSI C63.4にしたがって、キーボードとマウスの他にさらに2種類の異なるI/Oプロトコルの機器が同時に接続されている状態で試験をしています。)

結局2回目の予備試験はNISSEの試験というよりも、FCCの基準値をオーバーしない、FCCロゴ付きのパソコンと周辺機器の組み合わせを見つけ出すというミッションになりました。EMCサイトによってはパソコン等の機材を貸し出して下さるサイトもあるようなので、そういったサイトを利用するのもひとつの手かもしれません。

EMI予備試験結果

今回は、2回目の予備試験でNISSEとFCCロゴ付きのパソコンと周辺機器を組み合わせた構成でFCCの基準値を越えないことを無事に確認することができました。近傍界の測定結果と比べてもわかるように、ほとんどのノイズはNISSEではなく、パソコンやその他の周辺機器から出ているものになります。テスト機材の選定に意外と苦労されているというお話はEMCのご専門の方からも聞くことがあります。このあたりもEMCサイトの方に事前にご相談しておくと良い部分かもしれません。

本番試験


事前試験に加えて電波暗室での予備試験も行っていたこともあって、今回本番試験は無事に1回で終えることができました。実際のFCCの適合宣言については、NISSEに関しては台数も少ないこともあって、いまのところ輸入者側でを行って頂く方法をとっています(適合宣言を行うには米国内の住所が必要になるため)。適合宣言にあたってはFCCに何かを提出したりしないといけないといったことはありませんが、将来FCCから万が一何か要請があった場合には、エスリルから提供するEMIの試験報告書などをFCCへ提出することになります。

まとめ


一昨年の10月にエルゴノミック キーボードの話題をはじめだしてから、5ヶ月後の今年3月にはNISSEを製品化して受注を開始し、その9ヶ月後の12月にはアメリカ向けへの受注も開始したりと、想像以上に慌ただしい1年あまりでした。これからはこんな感じで世界中の小さなMakersから色々な製品が出てくるようになってくるのだろうなと思います。

奥山清行さんの著書「100年の価値をデザインする: 「本物のクリエイティブ力」をどう磨くか」の中で述べられている『一個でも一万個でもなく「二〇〇個」を作る技術を』という視点でモノづくりを見てみると、どこのメーカーも作ってくれないと諦めていたようなモノでも意外と小さなMakersでなら作れてしまうというモノもまだまだたくさんありそうですね。

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