Shiki’s Weblog

ニュー スティックニーかな配列(はいれつ)設計(せっけい)

2024/04/06

はじめに

 あたらしいかな配列(はいれつ)として、2016(ねん)からニュー スティックニーかな配列開発(かいはつ)しています。これは、(しん)JISかな配列(はいれつ)(どう)程度(ていど)打鍵(だけん)能率(のうりつ)をもった、おぼえやすい配列(はいれつ)をつくることを目標(もくひょう)としています。この記事(きじ)では、ニュー スティックニーかな配列(はいれつ)設計(せっけい)(じょう)のポイントと、その候補(こうほ)(あん)変遷(へんせん)をまとめています。

1. ニュー スティックニーかな配列(はいれつ)

 ニュー スティックニーかな配列(はいれつ)は、うちやすい3(だん)10(れつ)のキーのなかに、かな文字(もじ)をおさめています。


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 かな文字(もじ)は、配列(はいれつ)をおぼえやすいように、つぎの原則(げんそく)にしたがって配置(はいち)しています。

 この原則(げんそく)は、スティックニーが「ドノ()ガ ドコニ アル カ ト イゥ コト ガ (はや)(ワカ)ル コト モ,タイプライター ノ キィ ヲ (さだ)メル ニワ ヨホド 大切(たいせつ)ナ コト デアル」(p96, [1])というかんがえにそってきめた原則(げんそく)にならったものです。

現行(げんこう)のJISかな配列(はいれつ)は、スティックニーが設計(せっけい)した配列(はいれつ)がベースとなっています。ただ現在(げんざい)のJISの仕様(しよう)は、歴史(れきし)(てき)事情(じじょう)にともなう改悪(かいあく)があり、この原則(げんそく)がまもられていない部分(ぶぶん)がおおくなってしまっています。

 ニュー スティックニーかな配列は、「ひらがなIME」をつかうと、かんたんにつかうことができます。くわしいつかいかたは、その「マニュアル」をみてみてください。

2. 配列(はいれつ)のおぼえやすさと打鍵(だけん)能率(のうりつ)

 キーボードの配列(はいれつ)は、おぼえやすいだけではなく、じっさいの文章(ぶんしょう)をうちやくすくなっていることもたいせつです。たんじゅんな五十音(ごじゅうおん)(じゅん)のキーボードは文章(ぶんしょう)入力(にゅうりょく)にはむいていません。かな文字(もじ)には、文中(ぶんちゅう)によくでてくる()もあれば、そうでない()もあります。文中(ぶんちゅう)のかな文字(もじ)のならびかたにも、よくあるならびかたと、そうでないものがあります。文字(もじ)配列(はいれつ)は、そうした日本語(にほんご)特徴(とくちょう)をふまえて設計(せっけい)されていることも重要(じゅうよう)です。

 しかし、M(しき)開発(かいはつ)された()森田(もりた)正典(まさすけ)()も、論文(ろんぶん)各種(かくしゅ)日本(にほん)(ぶん)入力(にゅうりょく)方式(ほうしき)性能(せいのう)定量(ていりょう)(てき)比較(ひかく)」のなかで配列(はいれつ)のおぼえやすさ(記憶(きおく)負担(ふたん)(りょう))の重要(じゅうよう)(せい)についてのべています。いま、おおくのひとはローマ()入力(にゅうりょく)をつかっています。それとくらべると、親指(おやゆび)シフト,TRONかな配列(はいれつ)(しん)JISかな配列(はいれつ)などは、あきらかにおぼえるのがむずかしいのです。2016(ねん)まで、わたしも日本語(にほんご)入力(にゅうりょく)TRONかな配列(はいれつ)をつかっていました。タッチタイピングもできていました。ただ、使用(しよう)頻度(ひんど)のひくい()がき文字(もじ)など、位置(いち)をわすれがちな文字(もじ)があったのもたしかでした。

 配列(はいれつ)打鍵(だけん)能率(のうりつ)をたかめるためには、ほんとうに、文字(もじ)配列(はいれつ)不規則(ふきそく)なものにしないといけないのでしょうか。配列(はいれつ)打鍵(だけん)能率(のうりつ)というのは、じっさいにはタイピストの作業(さぎょう)効率(こうりつ)のことでした。おおくのひとがじぶんでタイピングをするようになったのは、それほどむかしのことではありません。かわりに清書(せいしょ)をするタイピストの効率(こうりつ)をあげるにはどうしたらよいか。そうしたかんがえから、配列(はいれつ)のおぼえやすさも重要(じゅうよう)だということを、わすれてしまっていなかったでしょうか。

(だい)(あん)

 まずは、(しん)JIS配列(はいれつ)基礎(きそ)にして、記憶(きおく)負担(ふたん)(りょう)をさげると、どれくらい打鍵(だけん)能率(のうりつ)がさがるのかをしらべました。しらべてみると、ホーム(だん)以外(いがい)配置(はいち)をかなりならびかえても、それほど打鍵(だけん)能率(のうりつ)がさがらないことがわかりました。打鍵(だけん)能率(のうりつ)大部分(だいぶぶん)は、ホーム(だん)設計(せっけい)によってきまるものだということがわかりました。


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2016年8月29日

(だい)(あん)

 おおきな設計(せっけい)方針(ほうしん)として、ホーム(だん)(しん)JIS配列(はいれつ)のすぐれた設計(せっけい)を、できるだけ、のこすことにしました。そのうえで、スティックニーの原則(げんそく)にならい、キーを五十音(ごじゅうおん)(ぎょう)ごとになるべくまとめていくことにしました。

 (だい)(あん)では、スティックニーの配列(はいれつ)のように()がき文字(もじ)のあるかなを上段(じょうだん)にまとめてみました。まずは、あたらしいスティックニーふうの3(だん)配列(はいれつ)のイメージをつかむことができました。


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2016年8月30日

(だい)(あん)

 スティックニーの原則(げんそく)濁点(だくてん)をつけられるかな文字(もじ)は、ひだり()がわにおく」をあてはめました。


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2016年8月30日

(だい)(あん)

 さらに、入力(にゅうりょく)する文章(ぶんしょう)によっては(しん)JIS配列(はいれつ)(どう)レベルの打鍵(だけん)能率(のうりつ)をえられるところまで配列(はいれつ)調整(ちょうせい)することができました。よい打鍵(だけん)能率(のうりつ)をえるためには、配列(はいれつ)不規則(ふきそく)にならざるをえない。そんなことは、どうもないようです。この(だい)(あん)から、あたらしい配列(はいれつ)を「ニュー スティックニー配列(はいれつ)」とよぶことにしました。


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2016年9月3日

2. プログラムをつかった、かな配列(はいれつ)探索(たんさく)

 コンピューターのプログラムをつかうと、よいキーボードの配列(はいれつ)探索(たんさく)していくことが容易(ようい)にできます。ニュー スティックニーかな配列(はいれつ)候補(こうほ)(あん)は、英語(えいご)(よう)計算(けいさん)配列(はいれつ)MTGAP方法(ほうほう)にならって探索(たんさく)してみることにしました。

 このとき、単純(たんじゅん)にただ打鍵(だけん)能率(のうりつ)のよい配列(はいれつ)をさぐっていくのではなく、配列(はいれつ)記憶(きおく)負担(ふたん)(りょう)同時(どうじ)計算(けいさん)するようにしました。そして、打鍵(だけん)能率(のうりつ)にすぐれていても、おぼえるのがむずかしい配列(はいれつ)は、配列(はいれつ)(あん)候補(こうほ)から除外(じょがい)するようにしました。

(だい)(あん)

 (だい)(あん)起点(きてん)として、打鍵(だけん)能率(のうりつ)のよい配列(はいれつ)改良(かいりょう)(あん)をさがしていきました。


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2016年9月20日

(だい)(あん)

 配列(はいれつ)から()がき文字(もじ)をとりのぞいて、キーで()がき文字(もじ)入力(にゅうりょく)する方法(ほうほう)実験(じっけん)しました。キーボード(じょう)文字(もじ)(すう)をおおきくへらせるので、おぼえやすさでは、あきらかに有利(ゆうり)方法(ほうほう)です。打鍵(だけん)能率(のうりつ)もそれほどおちないことが、わかりました。


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2017年1月2日

(だい)(あん)

 打鍵(だけん)能率(のうりつ)がおおきくさがらない範囲(はんい)で、キーを五十音(ごじゅうおん)(ぎょう)ごとにまとめました。


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2017年1月3日

(だい)(あん)

 (だい)(あん)では、ひだり()がわに、にごる(おと)のないキー()がのこっています。使用(しよう)頻度(ひんど)がひくいキーは、どこにおいても打鍵(だけん)能率(のうりつ)にほとんど影響(えいきょう)しません。しかし、そのぶん位置(いち)をわすれてしまいがちです。配置(はいち)にかんしては、この(あん)以降(いこう)も、なかなかおちつかない部分(ぶぶん)になりました。


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2017年1月9日

(だい)(あん)

 斎藤(さいとう)強三(きょうぞう)さんらの「ひらがな標準(ひょうじゅん)配列(はいれつ)」にならって、(ぎょう)(ぎょう)のかな文字(もじ)を、(だん)(子音(しいん))をあわせて、おなじキーに配置(はいち)するようにしました。にごる(おと)のない文字(もじ)をみぎ()がわにあつめられました。


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2017年6月13日

(だい)10(あん)

 (だい)(あん)では、ひだり()がわのシフト(めん)にあきがふえました。いっぽう、みぎ()がわに文字(もじ)がおおくなりすぎて、打鍵(だけん)能率(のうりつ)向上(こうじょう)させにくくなってきました。そのため、(だい)10(あん)では、(ぎょう)文字(もじ)をひだり()がわにうつすことにしました。()がきの「ゃゅょ」も、あとからをおして入力(にゅうりょく)するので、これはよしとしました。


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2017年6月30日

(だい)11(あん)

 プログラムをつかって、(だい)10(あん)からひだり()がわの打鍵(だけん)能率(のうりつ)をあげた配列(はいれつ)をみつけ、(だい)11(あん)としました。


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2017年7月23日

(だい)12(あん)

 (だい)12(あん)も、コンピューターのプログラムがみつけだした配列(はいれつ)(あん)です。このころ、プログラムがみつけてきた配列(はいれつ)候補(こうほ)のなかでは、打鍵(だけん)能率(のうりつ)がとびぬけてよいものでした。5(ねん)ちかく、じっさいにつかいつづけても、おおきな問題(もんだい)はみつかりませんでした。

 しかし、(だい)12(あん)には、おぼえやすさがすこし犠牲(ぎせい)になっているところがありました。(ぎょう)のキーがふたつに分断(ぶんだん)されていること。配置(はいち)例外(れいがい)(てき)なものになっていること。このふたつは、(だい)13(あん)以降(いこう)修正(しゅうせい)していくことになります。


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2017年8月7日

3. よりおぼえやすい配列(はいれつ)探究(たんきゅう)

 (だい)13(あん)からは、あらためて、おぼえやすさに重点(じゅうてん)をおくようにしました。ひとつよいことは、ニュー スティックニー配列(はいれつ)くらいのおぼえやすさだと、配列(はいれつ)変更(へんこう)しても、わりとすぐなれることです。

(だい)13(あん)

 文化(ぶんか)審議会(しんぎかい)から「公用文(こうようぶん)作成(さくせい)(かんが)(かた)」について(建議(けんぎ)」が公表(こうひょう)されました。このなかで、「解説(かいせつ)広報(こうほう)(とう)においては、必要(ひつよう)(おう)じて「?」「!」を(もち)いてよい」と明記(めいき)されました。(だい)12(あん)では、JISかな配列(はいれつ)同様(どうよう)に、「?」をかな配列(はいれつ)のなかにふくめていませんでした。まず、この(てん)をあらためる必要(ひつよう)がでてきました。


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2022年5月16日

(だい)14(あん)

 (だい)13(あん)では、「むめ」と「ぬね」がおぼにくいという問題(もんだい)がでてきました。試用(しよう)頻度(ひんど)のひくいキーは、なかなか、おぼえることができません。


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2022年6月1日

(だい)15(あん)

 (だい)14(あん)でも、「むめ」と「ぬね」がおぼにくいという問題(もんだい)がのこりました。さらに、おぼえやすさを優先(ゆうせん)して調整(ちょうせい)することにしました。


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2022年7月15日

ひらがなの「を」は、機能(きのう)(てき)には「お、」とおなじです。ですから「を」のあとに読点(とうてん)をうたないようにいうひともいます。ただ、いまの活字(かつじ)では、読点(とうてん)をつかわないとよみにいこともおおいです。

(だい)16(あん)

 (だい)15(あん)では、(ぎょう)(ぎょう)のかな文字(もじ)配置(はいち)不規則(ふきそく)で、まだおぼえにくさがのこりました。(だい)12(あん)から指摘(してき)されることのあった(ぎょう)のキーが分断(ぶんだん)されている問題(もんだい)にも対処(たいしょ)することにしました。


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2022年7月29日

  (だい)16(あん)は、スティックニーの配列(はいれつ)設計(せっけい)基本(きほん)コンセプトをみたした、さいしょのバージョンになりました。打鍵(だけん)能率(のうりつ)(だい)12(あん)とほとんどかわらないものができました。

(だい)17(あん)

 (だい)16(あん)は、(だい)15(あん)とくらべて()がきの「」と「」がうちにくくなっていました。この(てん)修正(しゅうせい)することにしました。打鍵(だけん)能率(のうりつ)(だい)16(あん)よりもよくなっています。この(あん)が、現在(げんざい)最終(さいしゅう)候補(こうほ)(あん)です。


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2023年7月21日

4. まとめ

 この記事(きじ)では、ニュー スティックニーかな配列(はいれつ)設計(せっけい)(じょう)のポイントと、その候補(こうほ)(あん)変遷(へんせん)をまとめました。

 ニュー スティックニーかな配列(はいれつ)設計(せっけい)は、おおきく3()にわけて、みることができます。

  1. かな配列(はいれつ)打鍵(だけん)能率(のうりつ)をあげるには、記憶(きおく)負担(ふたん)(りょう)をあげざるをえないのかどうかの確認(かくにん)
    (しん)JISかな配列(はいれつ)のレベルであれば、そんなことはなさそう。
  2. コンピューターのプログラムをつかった、条件(じょうけん)にあったかな配列(はいれつ)探索(たんさく)
    → なかなか性能(せいのう)がよく、おぼえやすい配列(はいれつ)がみつかる。
  3. (やく)(ねん)(かん)実証(じっしょう)実験(じっけん)()微調整(びちょうせい)
    → スティックニーの基本(きほん)原則(げんそく)をよりきちんとみたした打鍵(だけん)能率(のうりつ)のよい配列(はいれつ)(あん)探索(たんさく)

 現在(げんざい)最終(さいしゅう)候補(こうほ)(あん)としている(だい)17(あん)打鍵(だけん)能率(のうりつ)もよく、記憶(きおく)負担(ふたん)(りょう)もちいさなものになっています。

 わたしがもともとつかっていたTRONかな配列(はいれつ)は、ニュー スティックニーかな配列(はいれつ)開発(かいはつ)していく過程(かてい)で、完全(かんぜん)にわすれてしまいました。おぼえやすい配列(はいれつ)同等(どうとう)打鍵(だけん)性能(せいのう)のものがあれば、まえのものは、すぐにわすれてしまうものかもしれません。

 おおくのひとがつかえるかな配列(はいれつ)としては、スティックニーの基本(きほん)原則(げんそく)レベルのおぼえやすさは必要(ひつよう)なのではないか。これはたしかなようにおもわれます。()山下(やました)芳太郎(よしたろう)()もカナ文字(もじ)タイプライターの開発(かいはつ)にあたって、そのようにおもわれていたのです。

“コノタビ スチックネー シ ト デアッテ コレガ ケンキュウヲ ナス コト ヲ エタ ノワ ジツニ マンゾクニ オモウ トコロ デ アル。” (p.95 [1])

‘“コレマデ 各種(かくしゅ)文章(ぶんしょう)ニ ヨリ 文字(もじ)使用(しよう)頻度(ひんど)統計(とうけい) ヲ トッテ ソノ 使用(しよう)頻度(ひんど)()(ゆび)関係(かんけい) ノミ (おも)キ ニ ()()ギテ イタ (あん)修正(しゅうせい) シテ, ア(ぎょう) 文字(もじ),カ(ぎょう)文字(もじ)ナド ト イゥ (おな)種類(しゅるい)文字(もじ) ガ 一ツ ノ 系列(けいれつ) ニ ナル ヨゥ 修正(しゅうせい) ヲ シテ,スチックネー()(わたくし)十分(じゅうぶん)(みと)メル 程度(ていど)配置(はいち)(さだ)メタ ノデ アル。” (pp.96-97 [1])


参考(さんこう)文献(ぶんけん)

  1. 山下(やました)芳太郎(よしたろう), カタミノコトバ, 1924, 国立国会図書館デジタルコレクション.