Shiki’s Weblog

日本語プログラミング言語と簡約日本語 (1)

2019/01/25

 野元菊雄さんの研究に「簡約日本語」という研究があります。野元さんは国立国語研究所の所長もされたひとです。

 簡約日本語の初歩の部分は、日本語をまなびやすいように、かなりかんたんになっています。コンピューターで処理するのもかんたんそうです。となれば、簡約日本語をベースにした日本語のプログラミング言語というのもつくれそうな感じがします。

お題

 「ひとがいると自動で電気のつく部屋」というテーマでプログラムをつくってみよう。そんなお題がだされたとします。

 簡約日本語で、どんなふうにプログラムをかけるでしょうか。GPIO1にライトのスイッチ、GPIO3に人感センサーをつなげたとすると、こんなふうにかけそうです。

(※ GPIO。ラズベリーパイなどのコンピューターに、センサーやスイッチをつなげたりする汎用ピンの部分です。)

主題: ライト
ーーーーーー
ひとがいましたら、
  スイッチをいれます。
そうでなければ、
  スイッチをきります。

主題: スイッチ
ーーーーーーー
いれます、とは、
  GPIO1を1にします。
きります、とは、
  GPIO1を0にします。

主題: ひと
ーーーーー
います、とは、
  GPIO3が1です。

 どんな構文になっているでしょうか。

 条件文は、

NがVましたら、

 文 そうでなければ、

 文

 述語の定義文は、

Vます、とは、

  文

 ふつうの文は、この例ではつぎの3つの形をつかっています。

[目的語]をVます。[目的語]を[補語]にVます。N1がN2です。

 Nは名詞(あるいは数詞)です。Vは、動詞の連用形です。「およぎ」でも、「見え」でも、「食べ」でも、動詞の連用形ならVの部分にあてはまります。日本語のマス形はうまくできていて、ほかの活用形をしらなくてもつかえます。

 [補語]というのは、[目的語]の状態のことです。よくあるプログラミング言語なら、

[目的語]=[補語]

のような感じでかくところでしょうか。

N1がN2です。

という文は、条件文のなかでは、あんもくに真偽をあらわすことになります。ほりさげていくと、こんな感じでしょうか。

ひとがいましたら、 → GPIO3が1でしたら、 → 「GPIO3が1」が真でしたら、

論理学のおはなしのようになってきました。

ライトがふたつになったら

 こんどは、ふたつライトがある部屋をかんがえます。GPIO2にライトのスイッチをつけるところまでは、よいでしょう。

 つぎのようにかけば、うごくことはうごきそうです。

主題: ライト1
ーーーーーー
ひとがいましたら、
  スイッチ1をいれます。
そうでなければ、
  スイッチ1をきります。

主題: スイッチ1
ーーーーーーー
いれます、とは、
  GPIO1を1にします。
きります、とは、
  GPIO1を0にします。

主題: ライト2
ーーーーーー
ひとがいましたら、
  スイッチ2をいれます。
そうでなければ、
  スイッチ2をきります。

主題: スイッチ2
ーーーーーーー
いれます、とは、
  GPIO2を1にします。
きります、とは、
  GPIO2を0にします。

主題: ひと
ーーーーー
います、とは、
  GPIO3が1です。

 でも、とてもムダな感じがします。どうしてでしょうか。ライト1とライト2は、おなじ種類のモノなのにべつべつにかいたりしているからでしょう。

 オブジェクト指向のことをならったひとなら、クラスとインスタンスのはなしをおもいだすかもしれません。簡約日本語で、どんなふうにかけるでしょうか。

まとめ

 ところで、なぜいきなり野元菊雄さんの研究のはなしがでてきたのか、というおはなしを。じつは梅棹忠夫著作集 第5巻にお名前がでてきます。その部分を引用しておきます。

最近、野元菊雄さんは、外国人が短期的に習得できるような簡約日本語を提唱しています。それはまだ未完成で、反対もあるようですが、わたしはそのようなこころみがもっとおこなわれるべきだとおもっております。「現代文明における言語と文字」,『梅棹忠夫著作集 第5巻』,p541.

 「やさしい日本語」のようなものは、いろんなアプローチを研究してみたらよい。そういったおはなしでしょうか。また、野元さんも、梅棹忠夫著作集第18巻『日本語と文明』の月報に「おぞましき日本語」という題でみじかい文をよせています。

 このおはなしは、これくらいで。

 なんとなく、おもしろいプログラミング言語ができそうな感じがします。前回ふれた「プログラミング教育と国語の表現力」との関係も、よりはっきりしてきた感じがします。

 ライトがふたつになったら、どうかくか。次回はこの部分からかいてみようかとおもっています。

つづく。