Shiki’s Weblog

わたしの日本語表記のルール 2018 v1

2018/04/29

補足: 「わたしの日本語表記のルール 2018 v2」を公開しました。(2018/05/19)

 梅棹忠夫さんの文章のような表記をつかって作文をできるように、ということをつづけてきて一年あまりがたちました。

 漢字がすくなくて、よみやすい梅棹さんの日本語表記をいまではすっかり気にいっています。漢字とかなの配分のよみやすさについて、梅棹さんは、ご自身できめた表記の原則にもとづいてかいたらそうなるだけだ、ということをのべています。

 じっさいに梅棹忠夫著作集をよんだりしながら、その日本語表記のルールを再構築しようとしてみると、日本語表記のルールを構築していくこと自体、なかなかたいへんな作業だということに気づきました。今回は、自分のためのメモもかねて、いまつかっているわたしの日本語表記のルールをまとめてあります。

七つのルール

 いまはつぎの七つのルールをできるかぎりまもって文章をかくようにしています。

  1. 代名詞、副詞、接続詞、感動詞、助動詞、助詞、ナ形容詞(漢語から和語にとりこんだ形容動詞)は、かながきにする。
  2. 漢語は漢字でかく。常用漢字を意識して、むずかしい漢字はさける。
  3. 和語はかなでかく。体言(名詞や数詞)と、一音の動詞で意味が判別しにくいもの(例:買う、飼う)には漢字をつかうことも許容する。
  4. 文を『(補足部)-(補足部)-……-(補足部)-(述語)。』のように分解したときに、ながい補足部をさきに、みじかい補足部をあとにする。
  5. 読点がなくても意味がかわらない、がんじょうな文をかくようにする。がんじょうな文にならないときは、文をわけたりすることをかんがえる。
  6. ひらがながつづいて、よみにくくなったときは、あいだに読点をうつ。
  7. 文章の漢字使用率がたかくなりすぎないように注意する。(わたしは今年は、たかくても20%前後までを目標にしています。)

かんたんな説明

 ルール1.は、当用漢字の使用上の注意事項の「ロ」に、ナ形容詞をくわえたもの。「かんたん」とか「こくめい」といったことばも梅棹さんはひらがなでかきます。理解の仕かたはふたとおりあるとおもいます。

i. 副詞的につかえるナ形容詞はかながきでよい、というところから応用する。ii. もとが漢語でもナ形容詞はすでに和語に同化しているとみなして、ルール3.をつかう。

永澤済さんの「漢語「―な」型形容詞の伸張:日本語への同化」をよむと、ii.の理解もあるかなとおもっています。

 ルール2.は梅棹さんが著書などにかかれているままです。とくに2010年の改定常用漢字表に追加された漢字は、むずかしいと感じるひともおおいそうです。NHK漢字表記辞典のように、常用漢字表にあってもむずかしい漢字はかながきにする、といったセンスもひつようになってきているようです。

 ルール3.も梅棹さんが著書などにかかれているままです。ひらがながつづいて、よみにくくなったときも、このルールをつかうことがあります。

 ルール4.の語順のおはなしは、梅棹さんに作文の仕かたをおそわったことがあるという本多勝一さんの『日本語の作文技術』がくわしいです。ただ本多さんは、漢字のつかいかたが梅棹さんとちがいます。そのため、この本の内容そのままでは参考にできない部分もあります。

 

 ルール5.は、丸谷才一さんが 『文章読本』のなかで「究極的に重大なのは、たとへ句読点をすべて取払つてもなほかつ一人立ちしてゐる頑丈な文章を書くことなのである。」(p328)とかかれているものです。野内良三さんは『日本語作文術』のなかで、ルール4.のように「正順で書けば読点は不要」(p54)とかかれています。そして、このルール5.ができていないと、つぎのルール6.をつかうことができません。

 ルール6.は、わかちがきのかわりに読点をつかう、というルールです。本多さんは『日本語の作文技術』でわかちがきのかわりの読点はダメだとかいています。ルール6.を安易につかうと文の意味がかわってしまうおそれがあるからです。そういう問題をさけるためにも、もともとの文をあらかじめがんじょうにしておこう、というのがルール5.です。

 梅棹さんご自身は「ほとんど気にせずに読点を打っている」ともいわれていたようです。これは、てきとうに読点をうたれていた、ということではなくて、どこに読点をうってもだいじょうぶなほど文をがんじょうにしていた、というエピソードのようにおもいます。

 ルール7.の漢字使用率は、さいしょの6つのルールをまもっていると、しぜんにさがってきます。漢字使用率そのものは梅棹さんもただの結果といういいかたをされています。ただ、ことばえらびは梅棹さんがこだわられていたことがつたわっている点のひとつです(『分類語彙表』のことをかかれています)。漢語がおおくて漢字使用率がたかすぎるようなら、耳できいてわかる、やさしい、ひらがなのことばにおきかえられないかをかんがえます。

おわりに

 梅棹さんの表記をじっさいにマネしてみると、漢語は漢字、和語はかな、というほどたんじゅんなものではなく、作文の仕かたから気をつけていないと梅棹さんのようにはかけないことに気づきます。さいわい語順の部分は本多さんや野内さんのおかげで、ルールにもとづいてかけることがわかりました。それらもあわせて自分なりにまとめたのが、この七つのルールになります。

 さいきんのベストセラー本や、漢字のひらきかたを説明している作文の本などをみてみると、梅棹さんほどではないにしても、漢字使用率をさげようという意識がいまでもよくのこっていることがわかります。そうしたことは、文学系のひとやデザイン系のひとは、おおくの本をよんでセンスとしてみにつけているのだとおもいますが、理科系のひとには理学博士の梅棹さんのようにルールベースのほうがわかりやすかったりしないかな、とおもったりしています。

参考資料