Shiki’s Weblog

新キーボード プロジェクト? - 18.8mm改訂版と評価

2013/10/26 #新キーボードプロジェクト

今回は新キーボードのキーピッチ18.8mm版(L)の改定と評価について、Google+に書き込んでいたものを整理しておきます。その前に前回、「(エルゴノミックキーボードと)長方形のキーボードとの比較はあまり意味がない」とあっさり書いてしまったので少し補足。エルゴノミック キーボードと長方形のキーボードの一番の違いは、「長方形のキーボードは手および手首をキーボードから浮かせて使うもの」で「エルゴノミック キーボードは手首をパームレストに置いたまま使えるようにしたもの」ということ。「特にコンピュータを長時間操作するときは、…手および手首をキーボードから浮かせた状態で入力します。…てのひらや手首をパームレストなどに載せた状態で入力しないでください。」[1]というのが長方形のキーボードの正しい使い方ですね。Escudoウェブブラウザはバージョン0.4.0を今週リリースしました。修正内容については前々回まとめた通りのものになっています。0.4.1の計画についてはまた別にまとめていきます。

コストのお話

キーボード、自作するといくらかかるの?という心配があるようなので参考までにMXスイッチを使って18.8mmのキーピッチで作るとすると、

といった感じになります。18.8mm以外のキーピッチを使う場合は、キーキャップの入手や加工が結構手間になります。MXスイッチのかわりにもっと小さなタクトスイッチとかもあるのですが、それだとキータッチや寿命に不安があったります(4代目が使えなくなった原因)。というわけで、失敗せずに作れると合計16,000円位といったところでしょうか。ただ感光基板を自分で作る場合、というのがちょっと罠ですね。欲しい人を集められたり、予算に余裕があればP板.comとかで作ってもらう方がいいと思います。あとはパターン設計とかハンダ付けとか根気と時間です(笑)。マイコンはキーボード用のソースコードが配布されているのでそれをちょっとカスタマイズできるくらいのプログラミング(C言語)ができれば大丈夫です。それから本当に最初はハンダごてとかPICライタとか多少出費がかかります。さらに格好のよいハウジングがほしいときは、3D CADでSTLデータを作って、光造形屋さんに頼むか、流行りの3D プリンタで自作!

4代目TRONキーボード用のハウジングデータ4代目TRONキーボード用のハウジングデータ

ここまでやるとキーボード1台には高すぎですね f^_^;;

18.8mm(L)改定版

部材的にはやっぱりフルピッチ版以外はちょっと…、ということで18.8mm版を再調整しました。設計方針は、両端小指部分は手の小さい人は手のひら側面を軸に腕を回転して使ってもらうことにすることで妥協するかわりに、本来17mm版向きの手の大きさのひとも無理なく使えるようにする、というもの。18.8mm版しか作れなくても、手に合う人を最大限増やそう、と。

気をつけたのは、 1. あまりにエルゴノミック、エルゴノミックしすぎないようにする、 2. メインの左上1から右下Bまでの5x4キーの範囲では手の小さい人に支障がないように特に5キーが離れすぎないようにする、

といった点。また逆に手の横幅が大きい人のことも考えて、指を開く角度を17mm版よりもすこし小さくしてあります。

17mm版(M)との比較

17mm版(M)との比較17mm版(M)との比較

17mm版と比較すると、上端のラインはほぼ一致していることがわかります。今回の18.8mm版は人差し指の2列が1/4ピッチほど上下にずれた形状になっていて、手の小さい人でも5, 6キーに指が届きやすいようになっています。そのかわり4段目のZXCVBはややキーの上側を押すことになりそうです。これは悪いことばかりではなくて、手の小さい人だとフルピッチの4段目をタイプするとき指先がキーボード面とかなり垂直に近い角度になってしまうので、爪が当たらないようにスイッチの上側を押す方がよいかな、というのがあったりします。(キーキャップの形状もかなり影響しそうですが。)

Microsoft Sculpt Ergonomicとの比較

Microsoft社の公式ブログ[2]の写真を製品の寸法にあわせて加工したものに、18.8mm版の平面図を重ねてみました。

Microsoft Sculpt Ergonomicとの比較Microsoft Sculpt Ergonomicとの比較

可能な範囲で人差し指のキーを下げている新キーボードの形状が分かるでしょうか。(新キーボード、横幅が広く見えますが、実際にはTRONキーボードのように中央方向に向かって傾斜していくので、実際に上から見たときはもう少し狭く見えると思います。) キーボードの立体的な形状までMicrosoft Sculpt Ergonomicくらい工夫できていると、このフルピッチならすこし手が小さくても全部のキーにちゃんと指が届きそうです。

Truly Ergonomicとの比較

同じくフルピッチのエルゴノミック キーボード、Truly Ergonomic [3]との比較です。実物を見たことがないので公式サイトの写真を製品の寸法に合わせて加工したものの上に新キーボードの平面図を重ねてみました。

Truly Ergonomicとの比較Truly Ergonomicとの比較

人差し指と親指の考え方にちょっと相違があると思うけれど、それ以外はよくにています。実際にTruly Ergonomicを回転させて比較すると、違いはもうミリ単位になってきています。(フルピッチで作ると、もうそんなにデザイン的な余裕がありません。)

Truly Ergonomicを回転させて比較Truly Ergonomicを回転させて比較

全体的にハの字形状の角度の違いや、各列の角度の設定が、新キーボードの方がより手の小さい人向けに合わせている感じだと思います。このあたり、mm単位の指の長さ違いで日本人の人口のカバー率が何十%も変わったりする[4]ので手を抜けないところです。ちなみに人差し指の部分は、新キーボード < Sculpt Ergonomic < Truly Ergonomicの順で数ミリずつ上に上がっていっている感じですね。実におもしろい。 :P 余談 : 僕の予想では人差し指が7.8cm以上あるひとならTruly Ergonomicはかなりいいんじゃないかと思います。新キーボードと重ならない上段両端の4キーは小指はムリでも薬指が届くと思うので、そっちはそんなに心配いらないんじゃなかな、と思います。念のため。

手のサイズに合わないエルゴノミック キーボードを使うのはよくない

ここまで手の小さい人、大きい人、何ミリ上とか下とか細かいことを書いているなぁ、という印象のひとも多いと思います。watchmonoのTruly Ergonomicのレビュー[5]でも「特に手が小さい人は、打ちづらいキーがある→手・腕を動してしまう→全然エルゴノミクスじゃないすか!や だー!・・・・って事になりかねない」と書いてあったりします。ということで手の小さめの人がどんな手の動きをしているか、というのを示してみたの下図です。 マゼンダ の枠が薬指・小指を使うときの理想的な手の位置で、 グリーン の枠が人差し指・中指・親指を使う時の理想的な手の位置です。人差し指を使うときは手首をやや外側にひねって、腕を少し前に出すような動作が必要になります。これをエルゴノミックだからと手首を置いたままやっていたらレビューのような感想そのままになるんじゃないかと思います。(手の大きい人なら、こうはならないと思います。念のため。)

サイズの合わないエルゴノミックキーボードを無理に使おうとするとサイズの合わないエルゴノミックキーボードを無理に使おうとすると

なのでオリジナルのTRON キーボードではL・M・Sとか異なるサイズのキーボードを用意したい、ということになっていました(実際には1サイズしか出ていないそうです[6])。現状ではあまり数がでないエルゴノミック キーボードをさらに数サイズ量産するというのは、ビジネスとしては厳しすぎるのでどれか1サイズで、ということになってしまうのは仕方のないところがあるかもしれませんね。そこで最大公約数みたいなのを探さないといけない、というのはなかなか大変です。コスト的に可能なら機構的に各指のキーのブロックの位置をCyborgマウスのように調整できるといいかもしれませんね。最悪人差し指のブロックだけでも上下方向に10mmぐらい調整できればかなり違うと思います。(これだけでも機構の他に、基板が1〜2枚増えてなかなかチャレンジングです^^; )

ハウジング

今回、考えているハウジングのおおまかな形状は下図のようなイメージです。

ハウジングのイメージハウジングのイメージ

最近は昔と違ってキーボードは手前がやや高めで奥に行くほど低くなっていく逆傾斜がかかっている方が手首に負担が掛からなくてよいと考えられている様子です(難点はキートップの字が読みにくい、ということなのだけれど、エルゴノミックを使う人はタッチタイプ前提なのでたぶん問題ない筈)。その場合、パームレストが必須になるので図のように左右下に貼り出した感じになって、TRONキーボードと似ているけれど、傾き方が逆という感じです。これくらいの形状だと、安く作りたければアクリル板と接着剤でだいたいつくれそうですね。凝るのであれば、カウンタックのリアのようなデザインを取り入れると欲しくなりそうです、たぶん :P

まとめ

というわけで、先日購入したSculpt Ergonomicをしばらく使っていたのですが、本当に微妙に自分の手のサイズに合っていない感じで、このまま使い続けていると新キーボードをすぐにでも作りたくなってしまいそうだったので、ひとまずまだ使えそうな3代目の自作TRONキーボードをひっぱりだしてきてしまいました f^_^;;

3代目自作TRONキーボード3代目自作TRONキーボード

これは2005年ごろに マジェスタッチを分解して部品だけ取ってキーピッチ16mmで組み直したもので、それから3年くらい使っていました。MX茶軸スイッチは8年くらいたった今でも劣化している感じはなくてさすがです。TRONキーボードの16mmピッチは小指の部分が自分の手に合っていないのだけれど、しばらくはこれで我慢。時間があったらkicadをちょっと試してみたかったりするのだけれども(笑)

[1] http://windows.microsoft.com/ja-jp/windows/using-keyboard#using-keyboard=windows-vista

[2] http://blogs.technet.com/b/firehose/archive/2013/08/13/work-a-pain-new-sculpt-ergonomic-desktop-keyboard-combines-looks-and-comfort.aspx

[3] http://www.trulyergonomic.com/

[4] http://riodb.ibase.aist.go.jp/dhbodydb/hand/data/list.html

[5] http://watchmonoblog.blog71.fc2.com/blog-entry-2775.html

[6]http://ja.wikipedia.org/wiki/TRONプロジェクト